国際政治・アメリカ研究

    ■トピックス――国際事情・アメリカ事情  
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目 次

《2010年12月》
内部告発サイト「ウィキリークス」とは(渡邉梓帆里)

《2010年9月》
ホームページの更新、およびイラン情勢についての雑感

《2010年7月》
カリフォルニア州のマリファナ合法化論争(鈴木身江子)
IWC総会、捕鯨をめぐる対立を先送り(佐藤涼香)



《2010年12月》

内部告発サイト「ウィキリークス」とは(渡邉梓帆里)

  最近、ウィキリークス(WikiLeaks)というサイト上での機密公開の問題が世界各国に混乱を与えている。ウィキリークスとは、オーストラリア人で元 ハッカーのジュリアン・アサンジ氏(39)らが2006年に創設した国際的な内部告発サイトのことであり、運営に関わるボランティアの数は約1200人で あるとされている。

 ウィキリークスは約25万点もの米外交公電を保持していると言われているが、そのうち在日米大使館発のものは約 5700点にも上り、これは国別で見れば3位である。公開はまだされていないが、ウィキリークスは小出しに情報を公開しているため、いつ、どのような公電 が公開されるか予測不能であり、日本政府は戦々恐々としている。

 また、いままで公開された情報のなかには機密情報や、各国首脳の悪口なども含まれており、クリントン国務長官は火消しに追われている状態である。米政府はサーバーの削除や、資金源を遮断するなど、圧力を高めている。

  一方、ウィキリークスの活動を称賛しているのがベネズエラのチャベス大統領である。大統領は11月29日、国営テレビで「わたしはウィキリークスの人たち の勇敢さと勇気を祝わねばならない」とウィキリークスに賛辞を送り、クリントン国務長官は辞任すべきであると述べた。このように、ウィキリークスへの非難 も多い一方で、義賊のようなとらえかたもされているようだ。

 現在ウィキリークスのサイトは閲覧できないようになっているが、ミラーサイ トがおよそ750も存在しており、元のサイトと同じ情報を公開している。もしウィキリークスの活動を停止することができたとしても、インターネットという メディアがある限り類似の問題は起こりうる。ウィキリークスによる機密情報公開は一サイトだけの問題にとどまらず、内部告発の是非や、外交上の機密情報の 管理、インターネット時代のメディアの責任など、多くの問題を投げかけている。(2010/12/8)

(参考資料)『時事ドットコム』(2010年11月29日);『Bloomberg.co.jp 』(11月30日);『東京新聞』(12月3日夕刊);『ロイター』(12月8日)。

 

《2010年9月》


ホームページの更新、およびイラン情勢についての雑感

 各国・地域のニュースへのリンクを追加・修正し、Yahoo!検索と辞書検索、ニュース検索の不具合を修理した。

  ところで、最近、アメリカ・イスラエルとイランを対立軸とする中東情勢と、それについての日米のメディアの報道のあり方がやや気になっている。イランは、 2002年にブッシュ政権によって「悪の枢軸」と名指しで非難された後、2007年の国家情報会議(NIC)報告書では03年以降核兵器開発を中止したと されていたが、昨年来再び核兵器開発疑惑が取りざたされている。そして現在、アメリカでは、外交問題評議会のリチャード・ハース理事長が「イランによる核 兵器保有か、アメリカ・イスラエルによる予防攻撃か」、いやでもその二者択一が近づいている、といくつかの新聞を通じて警告し、イランの体制転換の必要性 が訴えられるとともに、対イラン強硬論が煽られている。

 この図式は、98年にネオコンの団体「アメリカ新世紀プロジェクト (PNAC)」が民主党のクリントン大統領に公開書簡を送り、対イラク強硬論を訴えたときと似ていないだろうか。たしかにPNACの主要メンバーによるイ ラク攻撃論が湾岸戦争以来の首尾一貫した持論であったのに対して、ハースによる予防攻撃のほのめかしは長年の一貫した政策的立場であるとはいえず、その意 味でイラン側の動向を見極めた情勢判断であると見られなくもない。ただ、どちらの場合もイスラエルとアラブ穏健派への肩入れ、二重基準、アメリカ流の善悪 二元論の影響がないとはいえず、アメリカ言論界のイラン批判をすべて鵜呑みにしてよいことにはならないはずである。

 イラクのケースで は、アメリカは、大量破壊兵器の疑惑があることを理由に2003年に先制攻撃を仕掛け、日本もそれを支持したのだが、日本と世界はその疑惑が事実ではない ことを後で知ることになった。それから7年が経過し、今度はイランの核疑惑がアメリカ・イスラエルによる「予防攻撃」とともに語られるようになっているわ けだが、われわれは今度こそ客観的に事態を観察できているだろうか。

 そんなことを考えながら、アルジャジーラの英語版イラン放送局のJapanese Radioや「日本語で読む中東メディア」などのサイトを読んでいると、私のホームページの「中東」 のページにも日本や欧米のニュース・ソースにしかリンクが張られていないことに気がついた。久しぶりに上述の内容でホームページの更新をした次第である。 なかんずく、東京外国語大学中東イスラーム研究教育プロジェクトが運営している「日本語で読む中東メディア」<http: //www.el.tufs.ac.jp/prmeis/news_j.html>というサイトは、2005年からアラビア語、ペルシア語、トルコ 語で書かれた中東諸国の新聞16紙の記事を日本語に翻訳して紹介しており、その功績は非常に大きいと思われ、その活動に敬意を表したい。(2010/9/12)


   

《2010年7月》

カリフォルニア州のマリファナ合法化論争(鈴木身江子)

  米カリフォルニア州で、11月の中間選挙と同時に、マリファナ合法化の是非を問う住民投票が行われる。その内容は、21歳以上の州民に一定量の所持や栽培 を認めるか否かというものである。米政府は連邦法でマリファナの使用や栽培を禁止している。しかし、医療目的に限り使用を認めている州が、カリフォルニア 州を含め14州存在する。医療目的での使用に限定するのか、全面解禁して酒やたばこと同じように嗜好品としての使用を認めるのかが争点となっている。なぜ いまマリファナ合法化が懸案となっているのか。その背景にはカリフォルニア州の財政難がある。

 現在、カリフォルニア州は約190億ドル (約1兆6700億円)の赤字を抱えており、その財政は深刻な状況である。税収の落ち込みから、公共サービスの削減や学校の授業日カットなどが進んでい る。そこで、マリファナを合法化し、酒やたばこのように課税をすることで、税収を増やしたいという見方が出てきたのである。昨年には州議会でマリファナの 使用を認める法案が審議され、マリファナへの課税による税収は年間14億ドルにおよぶという試算が公表された。

 また、カリフォルニア州 がヒッピー文化の発祥地であることも合法化への動きに影響を与えている。束縛されることを嫌い、体制に反発するという風土が今も受け継がれており、マリ ファナに対する見方が寛容なのである。一方、合法化反対派は、マリファナ中毒者による交通事故や犯罪の増加を懸念し、州政府の負担が増えるのではないかと 主張している。また、税収増のために強力な薬物への入り口となるマリファナを解禁すべきでないと、合法化に反発している。

 最新の世論調 査では、合法化賛成派が反対派を上回っており、住民投票で賛成派が勝利する可能性も低くない。全面解禁となった場合、犯罪の増加など社会的な問題や、連邦 法との整合性といった法律的な問題など取り組むべき課題は多く、投票の結果に注目が集まっている。(2010/7/23)

(参考文献)「マリフアナ合法化の損得勘定」『Newsweek』(2010年5月10日);『読売新聞』(7月17日);『産経ニュース』(3月25日・26日、7月5日);『CNN.co.jp』(3月26日)
 
(追記)11月2日、カリフォルニア州で住民投票が行われ、マリファナ合法化は反対多数で否決された。

 

IWC総会、捕鯨をめぐる対立を先送り(佐藤涼香)

 モ ロッコ南西部アガディールで開かれていた国際捕鯨委員会(IWC)の年次総会は6月25日、捕鯨国と反捕鯨国による協議が決裂したまま閉幕し、捕鯨の国際 ルールの決着は来年へ先送りされることになった。今回の総会では、4月にクリスチャン・マキエラ議長(チリ)が示した、今後10年間は商業捕鯨や調査捕鯨 の枠を撤廃し、IWCが捕鯨国の捕獲枠を課すことによって、世界全体の捕鯨頭数を削減しようという案の採択が目指されていた。IWCに加盟する88カ国の うち、総会参加国は69カ国であったが、反捕鯨国が過半数を占めていた。

 捕鯨国と反捕鯨国の対立の原点は、1982年に決議された商業捕 鯨モラトリアム(暫定的停止)にある。このモラトリアム決議は、欧米でクジラ保護論が高まったことを背景に導入されたが、科学的事実を無視した決定である と捕鯨国が反発し、ノルウェーとアイスランドは国際捕鯨取締条約に基づく異議申し立ての手続きをして商業捕鯨を続けてきた。日本も南極海などにおいて条約 を根拠とする調査捕鯨を行ってきた。

 マキエラ議長の提案では、日本による南極海でのクジラの頭数などを調べる調査捕鯨の捕獲枠を現在の約 850頭から2015年度には200頭に削減する代わりに、日本沿岸での年間120頭の商業捕鯨を認めるということが示された。これに対し、オーストラリ アや欧州連合(EU)の反捕鯨国は、南極海での日本の調査捕鯨は調査を装った商業捕鯨であり、正当化は認められないと反発し、調査捕鯨の最終的な廃止を要 求した。農林水産省の舟山康江政務官は、23日の全体会合で「科学に基づく議論を尊重するべきだ。世論が受け入れないからと言って、各国が持続性に問題の ない捕鯨でさえ否定することに驚愕(きょうがく)した」と述べ、調査捕鯨の正当性を改めて主張した。

 IWC総会で捕鯨の枠組みの修正には 有効投票の4分の3以上の賛成が必要であり、これまで捕鯨国、反捕鯨国双方の主張が通らない状態が続いている。今回の年次総会で合意に至らなかったこと で、1年間の冷却期間が設けられ、加盟各国は再び協議する方向で一致した。日本は、国際的な批判を受けながら、少なくともこの1年間は調査捕鯨を継続する ことになる。頑なな態度を示している反捕鯨国から譲歩を引き出すことが次期総会での日本の最大の課題である。(2010/7/2)

(参考文献)『朝日新聞』2010年6月21日、23日、『読売新聞』6月26日、『毎日新聞』6月20日、24日、26日。


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