国際政治・アメリカ研究

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2004年上半期2003年下半期2003年上半期2002年下半期2002年上半期2001年下半期2001年上半期



《2004年12月》
ブッシュ政権2期目の閣僚人事

《2004年11月》
ブッシュ大統領の再選――2004年大統領選挙

《2004年10月》
大統領選挙の接戦――ビンラディンのブッシュ批判の影響は?
イラク戦争の犠牲者数――10万人を超えたと推計

《2004年9月》
米連邦地裁が愛国法に違憲判断
共和党全国大会の開催――ブッシュ=チェイニー路線の継続

《2004年8月》
映画「華氏911」鑑賞日記

《2004年7月》
民主党全国大会――党綱領の採択とケリー氏の指名受諾
大量破壊兵器は見つからず(齋田直子)
先のみえない北朝鮮の核問題(川上淳一)
・「忠誠の誓約」をめぐる憲法論争(奥秋智子)


《2004年12月》

ブッシュ政権2期目の閣僚人事

 アメリカの大統領選挙は憲法上、選挙人による間接選挙となっており、先月行われた一般投票の結果を受けて、今月13日に大統領選挙人による投票が実施された。選挙人による投票の結果は、来年1月6日に連邦議会で開票されるが、慣例により一般投票の結果を忠実に反映したものとなる。ブッシュ大統領の2期目の就任式は、1月20日にとりおこなわれる予定である。2期目の閣僚の顔ぶれは、バーナード・ケリック氏が指命を辞退した国土安全保障長官のポストを除いて、下記のとおり出揃っている。

  国務        コンドリーザ・ライス(新任)
  国防        ドナルド・ラムズフェルド(留任)
  財務        ジョン・スノー(留任)
  司法        アルベルト・ゴンザレス(新任)
  内務        ゲール・ノートン(留任)
  農務        マイク・ジョハンズ(新任)
  国土安全保障  未定(新任)
  商務        カルロス・グティエレス(新任)
  労働        イレーン・チャオ(留任)
  住宅都市開発  アルフォンソ・ジャクソン(留任)
  運輸        ノーマン・ミネタ(留任)
  教育        マーガレット・スペリングズ(新任)
  退役軍人     ジム・ニコルソン(新任)
  エネルギー    サミュエル・ボドマン(新任)
  厚生        マイケル・レビット(新任)
            (以上、『産経新聞』12月11日の記事をもとに修正)

 9閣僚の交代は、1973年の第2期ニクソン政権以来の大改造となるが、今回の改造で特筆されるのは、第一に黒人女性初の国務長官となるライスを含めて女性が4人となったこと、第二にグティエレスおよびゴンザレスという2人のヒスパニックが新たに指名されたことである。マイノリティに冷たいという共和党のイメージを払拭し、急増するヒスパニック票を取り込みたいという共和党の思惑が見てとれる。

 去就をめぐって注目を集めたのは、パウエル国務長官とラムズフェルド国防長官であるが、パウエルは辞意を表明し慰留されなかった。ラムズフェルドについては国民の実に52パーセントが解任を望んでいるのだが、留任が決まった。21日のワシントンポスト紙の発表によれば、いまやアメリカ国民の56パーセントがイラク戦争を「戦う価値がなかった」と考えており、不満の矛先はラムズフェルド国防長官に向けられている。また、クリントン大統領が1996年の末に2期目を控えて60パーセントの支持率を誇っていたのに対して、ブッシュ大統領の現在の支持率は48パーセントで、再選を果たしたばかりだというのにいきなり50パーセントを下回っている。『毎日新聞』(12月14日)によれば、アメリカン大学のアラン・リットマン教授は、国防長官の人事について「いまラムズフェルド長官を辞めさせればイラクの失敗を認めることになるためだ」と指摘している。(2004/12/25)

(追記)1月11日、ブッシュ大統領は、次期国土安全保障長官にマイケル・チャートフを指名した (ロイター1月12日)

(参考資料:Washington Post, December 21; 産経新聞12月1日、11日; 毎日新聞12月14日; 時事通信12月21日)
 
 

《2004年11月》

ブッシュ大統領の再選――2004年大統領選挙

 11月2日に行われた一般投票の結果、共和党ブッシュ大統領の再選が決まり、議会でも共和党が優位を広げた。主な選挙結果は以下のとおり。(2004/11/30)

2004年大統領選挙結果
候補者
(政党)
選挙人獲得数
(勝利した州)
得票数
(得票率)
ブッシュ(共和党) 286( 31) 60,608,582(51%)
ケリー(民主党) 252(20) 57,288,974(48%)

連邦議会選挙および州知事選挙の結果
上院 下院 州知事
共和党 55 231 28
民主党 44 200 21
インディペンデント  1 1
未定 3 1

(出典)CNNより <http://us.cnn.com/ELECTION/2004/>

(追記)
 ロサンゼルス・タイムズ社の出口調査によると、今回の選挙で最も重視された争点は、テロでもイラクでも経済でもなく、意外にも「道徳的な価値観」(40%)であった。第2位の争点は「仕事・経済」(33%)、第3位の争点は「テロ・国土安全保障」(29%)、第4位の争点は「イラク情勢」(16%)である。このうち、ブッシュは「道徳的な価値観」と「テロ・国土安全保障」で支持を集め、ケリーは「仕事・経済」と「イラク情勢」で支持を集めた。それが全体として今回の選挙結果となっている。

 『ニューズウィーク』誌の報道でも、モラル重視派の79%がブッシュに票を入れたと報じられている。ブッシュは福音派キリスト教信者の76%の支持を勝ち取り、定期的に宗教礼拝に通う有権者の過半数も獲得できた。その背景としては、大統領選挙と同時に全米11州で、同性婚を禁じる州憲法の修正をめぐって住民投票が行われたことが指摘されている。(2005/2/25)

(参考資料)ハワード・ファインマン「歴史的な勝利の味は甘く……敗北は苦すぎた」『ニューズウィーク』(2004年11月17日号); "Election 2004," PollingReport.com <http://www.pollingreport.com/2004.htm>.
 
 

《2004年10月》

大統領選挙の接戦――ビンラディンのブッシュ批判の影響は?

  アメリカ大統領選挙戦は、7月下旬の民主党全国大会、8月下旬から9月上旬の共和党全国大会を経て、9月30日の第1回テレビ討論会、10月5日の副大統領候補討論会、8日の第2回、13日の第3回討論会と続き、まもなく11月2日の一般投票を迎えようとしている。その間、頻繁に行われた各種の世論調査では、ブッシュ(共和党)やや有利か、または双方互角と発表されてきた。選挙人獲得数の予測でも、ブッシュが有利と見る分析もあれば、ケリー(民主党)が有利と見る分析もあり、さらには269対269という同数になる可能性まで指摘されている。

 現役のブッシュ大統領が苦戦を強いられているのは、失業・医療保険・財政赤字などの問題とともに、イラク開戦の正当性の問題があるからにちがいない。今月6日、イラク大量破壊兵器に関する調査団のチャールズ・ドルファー団長は、イラクによる大量破壊兵器の保有を否定する最終報告書を米議会に提出した。国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、IAEAの立場が正しかったことを主張し、査察継続の要請を無視して開戦に踏み切ったブッシュ政権を批判した。アメリカでは、17日にニューヨークタイムズ紙がケリー氏支持の社説を掲載、24日にはワシントンポスト紙もケリー氏支持の社説を掲載している。外国の世論調査でも、イスラエルやロシアを除き、軒並みブッシュに対する反感からケリーに期待する声が強い。こうした中で、29日にゾグビー社とロイターが発表した最新の世論調査では、ブッシュとケリーの支持率はともに47パーセントでぴったりと並んだことが伝えられた。

 しかし、ブッシュ大統領は、9・11の同時多発テロ事件以来、ふたたびビンラディンによって窮地から救われる可能性が出てきた。2001年の政権発足以来、支持率が最低にまで落ち込んでいたブッシュ政権は、9・11のテロ事件を機に支持率を伸ばし、特に保守勢力とタカ派を勢いづかせる結果となった。そして、今回、カイロ時間で29日の夜、ビンラディンが中東のテレビ局アルジャジーラにビデオで出演し、9・11への関与を認めると同時にブッシュ政権を批判したことによって、ふたたびブッシュがリードを広げる可能性が出てきたのである。

 というのは、アメリカの世論は、イラク開戦の正当性を疑問視する一方で、テロとの戦いが避けられないならばその争点ではブッシュ政権を支持するという、かなり明確な態度を示してきたからである。したがって、ビンラディンがいかにブッシュを批判しようとも、それは逆効果になる公算が高いと考えられる。実際、30日、ニューズウィーク誌の世論調査によると、ブッシュ大統領の支持率は50%で、ケリーの44%を6ポイント引き離したというデータが出ている。もっとも、今回の大統領選挙に関する世論調査は、調査機関によって結果がまちまちなので、その数値にしてもどこまで信頼が置けるかは定かでない。また、ケリー陣営もビンラディンのビデオを自陣の側に有利に活用しようとしているので、それが功を奏する可能性もないとはいえない。ケリーによれば、9・11後にブッシュ政権がテロとの戦いを逸脱してイラク戦争に肩入れした結果、現在でもビンラディンを拘束できずにいるというのである。ただ、こうしたケリーの論理は、どこまで世論に訴えることができるであろうか。テロに怯える国民感情は、むしろ共和党タカ派の主張になびくのではないか。最終的にはこの点の判断は推察の域を出ず、明後日、11月2日の投票結果を見守りたいと思う。(2004/10/31)

(参考資料:共同通信10月8日、15日、17日、30日;  時事通信10月24日、26日、30日、31日)
 


イラク戦争の犠牲者数――10万人を超えたと推計

 米国防総省の19日の発表によると、イラク戦争による米軍の死者数は1100人を突破した。9月8日に1000人の大台に乗って以来、イラク情勢の悪化により、犠牲者の出るペースは増しているという。一方、イラク人の死者数については、公式のデータはなく、NGOの発表では約16000人程度とされてきた。しかし、28日、イギリスの医学誌『ランセット』(電子版)は、アメリカとイラクの大学の共同研究チームによる調査の結果を発表し、イラク人死者数は推計で10万人以上にのぼり、そのうちの過半数は女性や子どもであると指摘している。(2004/10/30)

(参考資料:共同通信10月20日、29日)
 

《2004年9月》

米連邦地裁が愛国法に違憲判断

 29日、米連邦地裁は、愛国法に基づく米連邦捜査局(FBI)の捜査権限が、憲法に違反するとの判断を下した。愛国法は、9・11の直後、「テロとの戦い」を進めるために必要であるとの名目で2001年10月につくられた法律で、FBIなど捜査当局の権限を大幅に拡大するものであった。しかし、十分な審議も行なわれずに制定されたこの法律は、テロの定義があいまいで、制定当初から市民的自由やプライバシーが必要以上に危険にさらされることが懸念されていた。同法では、FBIが電話会社やプロバイダに顧客の個人情報を求めることが認められており、原告はそれを「歯止めのない権限」だとして非難していた。(2004/10/12)

(参考資料:ロイター 9月30日)
 


共和党全国大会の開催――ブッシュ=チェイニー路線の継続

 共和党全国大会が、8月30日から9月2日までニューヨークで開催された。ニューヨーク州は民主党が多数派を占めるが、9・11の被災地で開催することによって、「テロとの戦い」におけるブッシュ政権の実績を強調する狙いがあると見られる。初日にマケイン上院議員、ジュリアーニ前ニューヨーク市長らが応援演説を行い、2日目には映画俳優でカリフォルニア州知事のシュワルツェネッガー氏の登場で会場は大いに盛り上がった。

 大会3日目は、次期副大統領候補に正式に指名された現職のチェイニーが指名受諾演説を行なった。その中で、チェイニーは「テロとの戦いで勝利する」と宣言、先制攻撃戦略を堅持する方針を示し、その一方で、民主党の大統領候補であるケリー上院議員のイラク方針やテロ対策の一貫性の欠如を厳しく批判した。最終日の4日目は、現職のブッシュが次期大統領候補の指名受諾演説を行ない、「思いやりのある保守主義」という基本方針を継続し、外交面では「テロとの戦い」を続けることによって、「より安全な世界」と「より希望の持てる米国」を建設すると表明した。民主党の正副大統領候補がイラク問題を強く批判しない中で、現職としての実績を強調する内容となった。

 7日の国防総省の発表では、イラクでの米軍兵士らの戦死者数の合計が昨年3月の開戦以来1000人を超えた。そのうち、昨年5月の戦闘終結宣言以降の死亡者は計863人にも上る。共和党の全国大会後、民主党のケリー大統領候補は、イラク戦争を「誤ったときと場所で起こった誤った戦争」として厳しく批判する態度に転換したが、それが功を奏するか、逆に、ケリーの態度はあいまいだという従来からの批判を強める結果となるか、今後の動向を見守りたい。(2004/10/12)

(参考資料:産経新聞8月31日、9月1日、3日、8日; 共同通信9月2日; ロイター9月2日)
 
 

《2004年8月》

映画「華氏911」鑑賞日記

 ブッシュ批判で有名なマイケル・ムーア監督の大ヒット映画「華氏 911」が8月14日に日本でも公開された。昨日、私も鑑賞してきたが、内容としては、若い兵士とその家族には同情しつつ、ユーモアもまじえながら権力者を批判する<イラク反戦の映画>というところであろうか。宣伝じみたことはしたくないが、料金分は楽しめたと思う。

 ところで、アメリカでは、11月の大統領選挙前にDVDが発売されるらしいが、この映画の選挙への影響は小さいとの見方もある。というのは、世論調査によれば、この映画を見たアメリカ人の圧倒的多数は民主党支持者であり、ブッシュが所属する共和党支持者の観客は少数にとどまっている。投票日前にDVDを発売しても、その結果は同じであろう。共和党員が映画を観ないというなら、どんなにヒットしたところでこの映画が彼らにブッシュへの投票をやめさせることはできない。しかし、無党派層への影響はどうであろうか。現在のように二大政党の力が拮抗した状況下では、どんな小さな影響も選挙の結果に大きく響かないとも限らない。そのことは前回、2000年選挙で証明されている。

 「華氏911」は、純粋なドキュメンタリーとしては事実の正確さや解釈の妥当性に問題がないとはいえないが、気負わずに観ればエンターテイメントとして楽しめるし、ニュース報道では流れていないような戦争の悲惨さを伝える映像もちりばめられ、ドキュメンタリーとして見応えのある場面もある。具体的な内容については、まだ見ていない人のためにあまり紹介しない方がよいと思うが、個人的に一番感心したのは司法長官の歌のうまさで、一番驚いたのは国防副長官の意外に無邪気な笑顔で、一番参考になったのは米軍のリクルートの場面であった。(2004/8/27)

(参考資料:共同通信7月24日; 『華氏 911』オフィシャルサイト
 

《2004年7月》

民主党全国大会――党綱領の採択とケリー氏の指名受諾

 民主党の全国大会は7月26日から29日までボストンで開催された。初日、クリントン前大統領が応援演説を行い、ブッシュ政権の金持ち優遇政策を暗に批判し、雇用の拡大と中間層への支援を訴えた。ただし、民主党議員がイラク戦争に反対する中で、党大会では、イラク戦争批判は抑制されていた。民主党の正副大統領候補の指名を受ける予定のケリーとエドワーズが、2003年当時、上院議員としてイラク戦争に賛成していたからである。

 党綱領が党大会の2日目に全会一致で採択された。「国内では強く、世界では尊敬される米国」をキャッチフレーズとして、国際協調路線を掲げ、ブッシュ政権の「単独行動主義」を批判した。ただし、党綱領は、共和党と同様に「テロリズムの打倒」を強調しており、イラク戦争そのものを否定していない。経済面では、雇用問題が焦点であり、民主党綱領では、今後4年間で1000万人の雇用創出が目標に掲げられた。

 大統領候補に正式指名されたケリー上院議員は、29日深夜に指名受諾演説を行い、4万人の米軍増強と欧州との同盟強化によって「強く世界に尊敬される米国」を取り戻すことを公約した。そして、イラク開戦の理由とされた大量破壊兵器疑惑の問題を踏まえて、軍事力を行使する前に確固とした証拠を要求するとしながらも、その一方で「いかなる国家、国際機関にも、米国の安全保障に対する拒否権を与えない」と述べ、時には先制攻撃も辞さない考えを明らかにした。

 アメリカ大統領選挙としては、珍しく外交問題が注目を集める中で、民主党はあえてイラク問題で攻勢に出なかった。中間層の支持の獲得を重視する民主党が、反戦の態度を前面に打ち出すことによってリベラルであるというレッテルを貼られることを嫌っていることは明らかである。(2004/10/12)

(参考資料:産経新聞7月27日、28日、30日; 共同通信7月28日、30日)
 


大量破壊兵器は見つからず(齋田直子)

 2004年7月9日、米上院情報特別委員会が、イラクの大量破壊兵器の保有は誤った情報であるという報告書を公表した。この報告書には「確度の高い情報がなかったにもかかわらず、『イラクが大量破壊兵器を保有している』という集団的な思い込みが定着してしまい、保有を確信するような見方が固まっていた」と述べられており、イラク開戦前のブッシュ大統領の発言が証拠に基づかないものであったことが批判されている。また、報告書は、米中央情報局(CIA)のテネット前長官も批判し、CIAの情報収集全般の能力の低下、組織の抜本的な改革の必要性を指摘している。テネット米中央情報局長官は7月11日付けで退任することとなった。

 この報告書についてブッシュ大統領は「有益な報告書である」と発言しているものの、「(イラク攻撃前には)大量破壊兵器が貯蔵されていると私も思ったし、議会も国連もそう思った」さらに「フセインは兵器を作る能力と意図があった。我々を憎んでいた。フセインが権力から去ったことで、世界はより良くなり米国は平和になった」とも発言しており、イラク戦争は正しかったという考えを変えていない。大統領は本格的な選挙戦の開始を間近に控えて、支持率の低下を懸念しているようにも見える。(2004年7月15日)

(参考文献:共同通信2004年7月6日、ロイター7月6日、時事通信7月9日、10日、読売新聞7月10日、産経新聞7月10日)
 


先のみえない北朝鮮の核問題(川上淳一)

 6月23日から26日にかけて、中国の北京で北朝鮮の核問題をめぐるによる第3回6カ国協議が行われた。北朝鮮と日米韓、特にアメリカとの間で対立が続いている。

 北朝鮮は前回の協議と同様に、軍事目的の核開発を凍結するかわりにエネルギー支援を求めてきた。一方、アメリカは、北朝鮮が平和利用も含む開発計画の全面的な放棄を表明すればアメリカ以外の協議国がエネルギー支援をするという提案を示し、初めて柔軟な態度を示した。日韓も、核の廃棄を前提として凍結をするのであれば重油の供給を始めると発表した。しかし、北朝鮮が寧辺にある実験用原子炉を凍結するとの具体案を示したのに対して、アメリカはあくまでも完全廃棄を要求している。

 今回、6カ国は、核の凍結は朝鮮半島の非核化の第一段階として必要だということで合意した。第3回6カ国協議は、前2回に比べて進展があったといえる。しかし米朝間には、核の凍結・廃棄に関していまだに基本的な意見の一致はない。アメリカはすべての核を廃棄することが先決だと考えており、北朝鮮は軍事目的の核凍結に対する見返りを必要としている。第4回の協議は9月末に開かれる予定であるが、いまだ北朝鮮の核問題は先が見えない。(2004年7月5日)

(参考文献:『朝日新聞』2004年6月24日、『読売新聞』2004年6月23日、6月24日、6月26日)


「忠誠の誓約」をめぐる憲法論争(奥秋智子)

 6月14日、アメリカ連邦最高裁は、公立学校で生徒たちが国旗に向かい「忠誠の誓約」をすることを違憲としたサンフランシスコ連邦控訴判所の判決を覆した。

 カリフォルニア州サクラメントに住むマイケル・A・ニューダウ氏がこの問題で訴訟を起こしたのは、いまから4年前のことであった。彼は無神論者であり、娘が学校で「忠誠の誓約」を求められたことに対し、政教分離の原則の反するとして、異議を申し立てたのである。これを受けて2002年6月26日、サンフランシスコ連邦控訴判所は、「神の下に」(Under the God)という表現がキリスト教的であり、宗教的に中立ではないと認め、憲法修正第1条に違反するという判決を言い渡した。この決定が有効となれば、西部9州の学校では「忠誠の誓約」が廃止されることになるはずであった。しかし、今回の判決により、「忠誠の誓い」は今後も続けられることになった。

 もっとも、今回の判決では、「忠誠の誓約」の合憲性について決着がつけられたわけではない。最高裁の判決では、ニューダウ氏が離婚後に完全な娘の親権を持っておらず、訴訟を起こす権利がないことが指摘され、「忠誠の誓約」が合憲か違憲かの憲法判断はなされなかった。レンキスト首席判事らは、「儀礼的、歴史的なもので違憲とはいえない」「愛国心の表現であり、宗教的な表現ではない」と付帯意見を述べたが、「忠誠の誓約」の合憲性については、今後も法的に争われることになる。(2004年7月5日)

(参考文献:『毎日新聞』(電子版)2004年6月15日、『朝日新聞』6月16日
『CNN.co.jp』6月15日、『Wired News』6月26日)


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