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トピックス――国際事情・アメリカ事情
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2003年下半期/2003年上半期/2002年下半期/2002年上半期/2001年下半期/2001年上半期
《2003年6月》
《2003年5月》
《2003年4月》
《2003年3月》
《2003年2月》
《2003年1月》
ブッシュ大統領が5月1日に戦闘終結を宣言してから2カ月近く経った今、世界最強のハイテク部隊と呼ばれる米陸軍第4機械化歩兵師団(約2万6000人)がイラクに駐留している。同師団はバグダット北方からイラク北部キルクークまでを管轄しており、旧フセイン政党の残党狩りや大量破壊兵器の捜索、戦後復興などを進めている。フセイン政権崩壊時、イラク市民が喜ぶ光景がメディアを通して報道された。しかし、旧政権下で優遇されてきた地元住民の一部は駐留米軍への反発を強めており、自分たちの既得権益を回復するために「フセイン復権」を願う声が根強く残っている。 6月18日にはイラク元軍人ら数千人による年金・給与要求デモが繰り広げられ、米兵による発砲で元軍人2人が死亡する流血の事態に発展した。また、25日に行方不明になった米兵2人が28日、遺体で発見された。米軍はフセイン元大統領に忠実な民兵組織の残党などによる犯行の可能性が高いとみている。米軍への攻撃は相次ぎ、「反占領闘争」は活発化している。イラク復興特別措置法に基づいて日本の自衛隊が現地に派遣された場合も、「占領者とみなす。米軍の指揮下に入れば、米軍と同じように扱う」と元イラク軍大佐は断言する。何千人もの被害者を出したイラク戦争が終わった今も、イラクでは、憎しみ合い、殺し合いが続いている。(2003年7月1日) (参考文献:『毎日新聞』6月24〜26日、29日; 『日本経済新聞』6月27日)
「すでに我々は大量破壊兵器(WMD)を発見した。国連決議に違反する生物兵器実施施設だ」。5月30日、ブッシュ大統領は外遊先のポーランドで地元テレビ局のインタビューに応えて断言した。イラクのWMD保持を断固として訴え、それをイラク攻撃の大義としてきたブッシュ大統領にとって、イラク戦に勝利した今、残る問題の一つはその大義を証明することである。しかし、ブッシュ大統領が生物兵器実施施設だと断言した2台のトラックはWMDの存在を裏付ける決定的証拠とは言えず、逆に「イラクにはWMDが存在する」という米当局の主張そのものに対する信頼が揺らいでいる。 6月5日付の『ワシントン・ポスト』紙の報道は、このWMD疑惑に更なる拍車をかけた。チェイニー副大統領が昨年、米中央情報局(CIA)本部を訪れ、イラクのWMDについての質問を繰り返していたとの報道である。この副大統領の度重なる訪問は、CIAへの圧力になったと見られる。実際、10月にまとめられたCIAの報告書は「イラクは生物・化学兵器を所有している」という内容となったが、CIAの複数の幹部が副大統領の訪問に重圧を感じていたことを同紙の記者に打ち明けている。 次期大統領選挙を見越して、野党・民主党は今月に入って一斉にブッシュ政権の疑惑に対しての攻撃を始めた。愛国心とメディア、世論を巧みに操作し、イラク戦争の勝利を手中に収めてから約1カ月半、ブッシュ大統領は次期大統領選を懸念しつつ、困難な壁に突き当たっている。(2003/6/25) (参考文献:『朝日新聞』6月12日、20日)
東京電力は、原子力発電所の自主点検作業における事実隠しや、修理記録の虚偽の記載などの不祥事が相次いだために、いくつかの発電所を停止せざるを得ない状況に陥った。そのため、電力不足による東京大停電の発生が懸念され、東電は今春以降、営業社員を総動員して企業や国民に節電の協力を要請している。 原因は東電自身のトラブル隠しだけに、企業の側には、節電の要請を素直に受け入れたくない気持ちもある。しかし、現状では、盆休みを除く7月上旬から9月上旬にかけて平日昼間には厳しい需給状況となることが見込まれており、悪くすれば停電のおそれもある。そこで、たとえば、サッポロビールは千葉県の工場での生産を夜間中心にシフトさせることを検討している。東京ディズニーランドに代表される運営会社、オリエンタルランドは、3月から節電を始めており、アトラクションの舞台裏や事務所内の廊下の照明を間引いているほか、エアコンの設定温度を上げているという。 東電では、今月下旬から当日の需給予測を知らせる「でんき予報」を開始しており、広く節電への関心を高めようと努力している。(2003年6月11日) (参考文献:『朝日新聞』6月7日、『東京電力ホームページ』2003年6月9日)
数年前から、茨城県神栖町木崎の住民が身体が動かなくなるなどの原因不明の運動障害に陥っている。 最初に手が震える、ろれつが回らない、バランスを崩し、倒れてそのまま寝てしまうなどの症状を訴えたのは4年前に神栖町に引っ越してきた主婦であった。主婦が発症したのは引っ越してきてから1年たってからで、次女にも似た症状が起こり、遺伝性疾患、ウイルス、農薬汚染の検査をしたが原因は分からなかった。今年2月に神栖町で40代の女性が足元がふらつき手も震えるといった症状を訴え、3人目となった。ここで遺伝性疾患の可能性が消え、親子が入院すると症状が改善し、退院すると悪化することからようやく井戸水が原因ではないかという結論に達した。 それは神栖町が茨城県の平均より20ポイントも低い67.3パーセントという水道普及率からであった。住民は利根川の豊富な地下水を飲用していて、地下水のほうが味がよく、水脈が地下10メートルほどで浅く、設置費用が安いことが背景となっている。保健所が検査したところ、親子が飲んでいた地下水からは1リットル中に4.5ミリグラムのヒ素が検出され、これは環境基準の450倍だった。最終的には検査した950ヵ所のうち102ヵ所が基準を上回った。 果たして、このヒ素はどこから来たのか。ヒ素はもともと自然界に存在しているが、神栖町で検出された有機ヒ素化合物は自然界に存在するはずのないものである。中毒の臨床例がほとんどないため、治療法、後遺症も分かっていない。井戸水を調べていた県衛生研究所はこの有機ヒ素化合物が毒ガスの「おう吐剤(くしゃみ剤)」が分解してできたものであることを突き止めた。そして、神栖町付近には、終戦間際に旧陸軍の独立混成115旅団が配備されていたことから、米軍上陸に備えて毒ガスを配備し、終戦後に国際法に抵触するおそれがあると考えて埋めたものが流れ出てきたと見られている。 この問題に対して、自民党環境基本問題調査会の国会議員団が5月26日、現地を訪れた。住民救済のために何が必要か判断するためである。国は被害の実態を受けて、対策をとる方針を打ち出したが、現行制度では過去の治療費や生活保障をする補償は難しく、今後かかる治療費しか出せないという。鈴木環境相は「我々は補償ではなくて救済のつもりで考えている」とあえて補償という言葉を避けた。補償とは過去にさかのぼり治療費を負担することだが、それだと旧日本軍が毒ガスを埋めた責任を国が認めることになる。そうなると東京大空襲などの戦後補償などにも大きな影響を与えてしまう。そのため環境省は研究費の予算から医療費を公費負担するという救済措置を考えているが、この研究費は過去の治療費までさかのぼることができない。自分たちは補償されると信じていた住民たちは失望を隠せない。 本来、過去の治療費を払うのが当然で、その上で将来の補償や精神的苦痛も検討されるべきである。確かに戦後補償は難しい問題だが、先延ばしにすれば問題はさらに難しくなるのではないか。政府の早急かつ柔軟な対応が待たれる。(2003年6月4日) (参考文献:『朝日新聞』5月10日、5月27日)
《2003年5月》
5月28日、ブッシュ大統領は、総額3500億ドル(約41兆円)の減税法案に署名した。今回の減税法案は、イラク戦争後、来年の大統領選挙に向けて経済問題が注目を集めるようになる中で、ブッシュ大統領が景気の浮揚と雇用の創出を狙って7260億ドルの減税を提案したのが発端であるが、議会は財政赤字の拡大への懸念から減税の規模を半分以下に圧縮した。また、当初の大統領案では、株式配当金への課税の撤廃が唱われていたが、税率の引き下げにとどめられた。議会での投票は23日に行なわれ、下院では賛成231票、反対200票で通過、上院では投票結果が50対50の同数となったため、合衆国憲法の定めに従って上院議長である副大統領のチェイニーが投票し、可決した。(2003/6/10) (参考文献:毎日新聞5月29日、共同通信5月23日、5月29日)
先日、あるテレビ番組で、ユニークな料理を出すニューヨークのイタリアンレストランを紹介していた。その店の名前は「セラフィーナ・サンドロ」といって、生粋のイタリア人であるシェフがイタリア家庭料理を馳走してくれる。ただ一つ、他の店と比較して特異な点は、香辛料やソースにヴァージニア産のたばこの葉を使用しているところである。アメリカは、たばこ大国である一方、数多くのたばこ規制や多数の反たばこ派が存在している。そして、この店も店内禁煙を余儀なくされた。このユニークな料理は、世界規模で禁煙化を促進するための「たばこ規制枠組み条約」と禁煙条例に対する反発的、皮肉的なジョークなのであった。 このたばこ規制枠組み条約の目的は、たばこ消費と受動喫煙が膨大な死と疫病と障害を引き起こすことが、臨床的・学問的な証拠に基づき証明されていることを認識し、世界的にたばこ規制の枠組みを一本化し、継続的にたばこの消費を削減することによって、たばこの煙によって起こる健康的、社会的、経済的な被害から人々を守ることにある。この条約は、5月21日にジュネーブで開かれた192カ国とWHOからなる世界保健機関総会で、最後まで反対してきたアメリカを含め、全会一致で採択された。この条約が発効すれば、主にたばこ課税、マイルドなどの形容的表示の規制、たばこ広告の規制、自動販売機の規制、健康警告表示の強化、たばこ補助金、健康損害とたばこ製造者の責任、財政資金問題などが改善される見込みである。 前述のレストランのたばこを使用した料理について医者に尋ねてみた結果、健康に害はないらしい。しかし、別の医者は、害はないが頻繁に食せば胃に良くないとコメントした。いずれにせよ、このたばこ料理は、反体制の精神の表れである。いま世界で迫害されている愛煙家たちは、黙って世界の動向に流されるのか、彼らのように反体制の意思を表明して抵抗するのか、いずれの態度をとるのかを迫られている。(2003/5/24) (参考資料:日本テレビ『さきどり!Navi』5月14・21日放送、『朝日新聞』5月22日、禁煙推進議員連盟「たばこ規制枠組み条約について」2002年11月20日など)
1日、ブッシュ大統領は、イラク戦争での大規模な戦闘の終結を宣言した。大統領はこの演説の中で、イラク戦争が「テロとの戦争」の一環であることを強調し、イラクの戦場における勝利を「テロとの戦争」における「決定的な前進」として高く評価した。しかし、当初、開戦の理由としていた大量破壊兵器は、いまだ発見されていない。また、フセイン大統領の消息も確認できていない。アメリカ国民は、75パーセントが現下のイラク情勢を支持しているものの、この戦争の正当性について疑問や苛立ちの声が挙がることは避けられない状況である。 フランクス中央軍司令官が先月末に語ったところでは、米軍が大量破壊兵器の関連施設として疑惑の目を向けているのはイラク国内の約1000カ所で、最終的に捜索は数千カ所に上る見通しであるという。フライシャー大統領報道官は、捜査の見通しと証拠の発見について「時間はかかるが、間違いなく見つかる」との強気の姿勢を崩していない。このような状況において、ブッシュ大統領は、完全な戦争の終結と勝利を唱うことはできなかったが、今回の戦闘終結宣言でイラク情勢にひとつの区切りをつけて、今後は、来年の大統領選挙に向けて国内問題・経済問題に重点を移す狙いである。ブッシュ大統領の支持率は以前として高い水準だが、湾岸戦争後に父親が集めた支持ほど熱狂的な反応が見られないのは、戦争の大義名分である大量破壊兵器が見つからないことと同時に、国民の関心が早くも国内の景気の低迷や失業問題に移っているためと見られる。 ブッシュ大統領は、イラクでの「困難な仕事」は終わっていないと述べ、イラクの民主化と戦後処理の問題に継続的にコミットする意思を強調した。ただ、イラクの戦後復興問題に関しては、国際的な意見の対立があるのみならず、アメリカ国内において国務省と国防省の主導権争いが決着を見ておらず、また、イラク国内でアメリカへの不信感がくすぶっているのも事実である。 なお、先月30日、国務省は、2002年の国際テロ活動に関する報告書を発表し、北朝鮮、イラン、シリア、リビア、スーダン、キューバの計6カ国を「テロ支援国家」に指定した。イラクも指定対象としたが、フセイン政権の崩壊を受けてパウエル国務長官はブッシュ大統領に指定解除を勧告し、まもなく指定が解除される見通しである。テロの発生件数は2001年の355件から199件に激減しており、アメリカによる「テロとの戦争」は、たしかに効果をあげている。しかし、その方法の妥当性・正当性については、まだまだ論議は収まらないであろう。(2003/5/3) (毎日新聞5月2日、読売新聞5月3日、共同通信5月1日・3日)
4月24日、CNNは、北朝鮮が米朝中3カ国協議の中で核保有を認める発言をしたことを報道した。北朝鮮は、昨年末IAEAの査察を拒否して、プルトニウムを抽出できる約8000本の使用済み核燃料棒の封印を除去したが、その再処理が済んだ場合には6個程度の核爆弾製造が可能になると見られる。ただ、アメリカ政府は北朝鮮が再処理を開始したとの情報をつかんでおらず、核実験が行なわれた形跡もない。プルトニウム型爆弾の開発には、実験が不可欠とされているため、北朝鮮の発言はブラフ(脅し、はったり)ではないかとの見方もある。北朝鮮の瀬戸際外交がどのような結果を生むかは、アメリカの出方に大きくかかっている。 なお、北朝鮮の核開発問題の経緯は、およそ次の通りである。(2003/4/26) (年表)北朝鮮の核開発問題
(参考資料:毎日新聞4月25日、読売新聞4月25日、朝日新聞「北朝鮮の核開発をめぐる動き」)
『アメリカ学会会報』No.149(4月15日発行)によれば、アメリカ学会会員有志121名(7日現在)がイラク戦争に対する不支持を表明し、学会としての意見表明を行うべきことを要望した。結局、アメリカ学会として政治的立場を表明することはないようであるが、これだけ多くのアメリカ研究者がアメリカの政策に対する反対を明確にしていることは注目に値する。有志の声明文は、web上に公開されているので、こちらを参照されたい。(2003/4/20)
11日、アメリカ上下両院は、2004年度(2003年10月〜2004年9月)の連邦予算案をそれぞれに可決したが、最大の焦点である大型減税の規模は、財政赤字の拡大の不安から、両院協議会でも調整がつかないという異例の事態となった。歳出規模は下院案で2兆2000億ドルであり、財政赤字は過去最大となる見込みである。 ブッシュ大統領は、株式配当への二重課税撤廃などを柱とする大型減税案を、向こう10年間、7260億ドル規模で実施することを求めていた。しかし、連邦議会には、イラク戦争の影響で財政状況が一段と悪化していることへの不安があり、民主党議員と一部の共和党議員が減税規模の縮小を求めた。その結果、下院は最大5500億ドル(約66兆円)に減税規模を圧縮、上院に至っては原案の半分以下である3500億ドルとした。これに対して15日、ブッシュ大統領は「経済成長を確実にし、雇用不安を払しょくするには最低でも5500億ドル規模の減税が必要」であると述べて下院案での決着を求め、大型減税の早期実現を議会に呼びかけた。 16日、ブッシュ大統領は、イラク戦費調達のための総額790億ドル(約9兆4800億円)の03会計年度補正予算に署名した。国防総省の16日の発表によれば、イラク戦争で米軍がこれまでに使った戦費は約200億ドル(約2兆4000億円)にのぼり、03会計年度が終わる今年9月末までには合計で300億ドルの戦費が使われる見通しであるという。今回の補正予算の支出によって、03会計年度の財政赤字は過去最悪の4000億ドルに膨らむ見通しである。 米誌ニューズウィークが12日に発表した世論調査結果によると、フセイン・イラク政権の崩壊を受け、ブッシュ米大統領の支持率は71%と小幅に上昇した。ただし、ブッシュ大統領の再選については、51%が望む、38%が望まないと回答しており、2004年選挙の見通しはなおも予断を許さない。個別の問題では、イラク戦争への支持率は74%と高いが、経済の運営については不支持が46%であり、支持の44%を上回っている。税制、環境など内政問題では支持率が軒並み50%を割り込んであるという。 フセイン政権を短期間で崩壊に追い込んだブッシュ政権であるが、今後の経済状況次第では湾岸戦争後の92年選挙で破れた父の二の舞にならないとも限らず、経済問題への取り組みが注目される。(2003/4/19) (参考資料:毎日新聞4月16日、17日、ロイター4月12日、16日、共同通信4月12日、13日)
米軍によるバグダッド侵攻後、イラクの首都バグダッドは無秩序状態に陥り、略奪が横行している。その状況を受けて、11日のラムズフェルド国防長官の記者会見では、イラクの治安悪化に米軍が有効な手だてを打っていないことに質問が集中した。長官は最初は冷静に対応したが、途中から興奮気味になって、「自由とは安定してないものだ。自由な人々は自由に過ちを犯し犯罪に走る」「これで解放が相殺されたと気にすべきなのか。抑圧されていた方がよかったのか」と主張した。 なるほど、アメリカ人の間では、自由の御旗の下では何事も代償として耐えるべきとの考えが通用するのかもしれない。しかし、アメリカ以外のすべての国にとって、自由は絶対的な価値ではなく、あくまでも相対的な価値である。自由の価値に対するアメリカ政府の絶対的な態度が、時としてアメリカと国際世論の間に溝をつくる原因となっている。(2003/4/19) (参考資料:共同通信4月12日)
イラク戦争の開戦から21日目にあたる4月9日、米英軍がイラクの首都バグダッドをほぼ制圧し、フセイン政権を機能不全に陥れた。フセイン大統領の消息はわかっていないが、米英軍に対するイラク軍の組織的な抵抗はなくなり、バグダッドの政府施設はもぬけの殻となっている。 イラク市民はフセイン大統領の銅像をなぎ倒し、政府施設から物品を略奪している。米英軍に対する市民の抵抗はほとんど見られず、少なくともメディアの映し出す映像をみるかぎり、イラク国民はフセイン政権の崩壊と米軍の侵入を歓迎しているように見える。ブッシュ大統領は「これは歴史的な瞬間だ」と述べ、フセイン政権が事実上崩壊したことを印象づけた。 米英軍はイラク南部からバグダッドに向けて北進してきたが、今後は首都バグダッドのさらに北方に位置する都市ティクリートを攻略しようとしている。ティクリートはフセイン大統領の出身地であり、ここを制圧すれば少なくとも都市部の戦いに決着がつくと見られている。 気になる犠牲者数であるが、国防総省が10日に発表したところでは、イラク戦争による米軍の犠牲者(死亡者)数は105人に達した。負傷者は399人、行方不明者は11人、イラクに捕らえられた戦争捕虜は7人である。一方、イラク側の死傷者は正確に把握することが難しいが、市民団体「イラク・ボディ・カウント」によると、10日までのイラク民間人死者数は1123〜1359人と推計されている。(2003/4/11) (参考資料:『朝日新聞』4月10日、『毎日新聞』4月11日、ロイター4月11日)
26日、米中央軍のブルックス准将は、米軍が劣化ウラン弾を「非常にわずかな量」ながら使用していることを認めた。劣化ウラン弾は、コストが安い割に戦車などの装甲を破壊する力が強く、1991年の湾岸戦争で多用された兵器であるが、放射能による人体への影響が危険視されている。 湾岸戦争後、広島・長崎の原爆による被害と同じように、イラク市民の間にガンや白血病が増え、外見的な奇形も含め先天的な障害児の出生率が異常に高まった。米軍の中にも原因不明の健康被害が増えて「湾岸戦争症候群」が問題とされている。これらは、劣化ウラン弾による被爆が原因である可能性がきわめて高いのである。 アメリカは、90年代旧ユーゴの紛争でも劣化ウラン弾を用いて国際的な批判を浴びたが、アフガニスタンにおける対テロ戦争でも大量に使用した疑いを持たれている。准将は今回の作戦における劣化ウラン弾の使用には「これまで考えられてきたような危険性はない」と述べているが、今回もまた市民の間に被爆者が現れた場合に米軍には責任をとる用意があるのか、大いに疑問である。(2003/3/27) (参考資料:共同通信3月27日、中国新聞の特集「劣化ウラン弾 被曝深刻」、フォトジャーナリスト森住卓氏のホームページなど)
今日、アメリカ時間の19日(日本時間20日)、ブッシュ大統領は、テレビ演説において英米軍がイラク攻撃を開始したことを発表した。空爆はまだ初期的な段階であり、限定的なものであるが、これから大規模な空爆が行なわれることは間違いない。そうなれば、イラク市民の被害も拡大されざるをえないであろう。また、追いつめられたイラク軍が、自国や外国の市民に対してテロなどの暴挙に出ないとも限らない。(2003/3/20、4/6rev.) イラク戦争特集: Yahoo!ニュース 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞
アメリカでは17日の大統領演説によって、イラクに対する武力行使への支持が先週の59パーセントから71パーセントに急増した。また、アメリカ政府は19日、アメリカの武力行使を支持する30カ国を発表し、武力行使に反対する国々を牽制した。しかし、フランス、ドイツ、ロシア、中国など主要国の多くは即座の武力行使に反対であり、イギリスやイタリアや日本など政府が武力行使を支持する国の中にも世論が反発している国は多い。その意味では、『ワシントンポスト』紙の見出しにあるとおり、現状は「アメリカと国際社会の分裂」と述べてよいであろう。なお、同紙によれば、現時点でアメリカの武力行使を明確に支持している30カ国は以下の通りである。
(参考資料:Washington Post,
March 19, 2003)
17日(日本時間18日)ブッシュ大統領は、テレビ演説を行ない、イラクのサダム・フセイン大統領とその息子たちに対して48時間以内に亡命しなければ武力行使に踏み切るとする最後通告を行なった。国連安保理における協議を控えて、対イラク武力行使容認決議案が通る見込みを失ったブッシュ政権は、イギリス、スペインと協議の末、昨年11月の国連安保理決議1441号などを根拠としてイラク攻撃が正当化されるという立場を明確にしたのである。 たしかに、ブッシュ政権の単独行動主義は、政権の発足当初からよく知られており、ブッシュ政権の外交を操るネオコン(新保守主義者)たちが9・11以前でさえフセインの首を狙っていたこともよく知られており、また、先制攻撃戦略が昨年9月の報告書『合衆国の国家安全保障戦略』で打ち出され、ブッシュ・ドクトリンと呼ばれているのも周知の事実である。その意味では、今回のブッシュの決定は、国際問題に関心のある人々にとって特に驚くべきものではなかったかもしれない。しかし、それでも、今回の決定は、歴史的に重要なものであり、実際の戦争が始まる前に、アメリカの最後通告に反対する私なりの意見を表明しておきたいと思う。 そもそも、国際政治において正義はひとつではなく、多かれ少なかれ、どの国もみずからの正義を振りかざすものである。しかしながら、今回のブッシュ政権の決定は、近現代における国際の道義に照らして度を超しており、国際法違反であるとの疑いから免れない。もし戦争自体を廃止できないのであれば、過度の残虐行為を排しおよび無辜の市民(非戦闘員)の生命や財産権を守るために、戦争を法によって規制しなければならないというのが近代国際法における大前提である。しかし、アメリカは国連憲章の規定に反して、攻撃の対象とされるイラクの側がいまだ武力を行使していない状況において、国連安保理による武力行使容認決議もなしに、自国に対する差し迫った脅威も明示できないままに、不敵にも堂々と先制攻撃を仕掛けようとしているのである。10日、国連のアナン事務総長は、「安保理の支持がない軍事行動は国連憲章に違反する」と語り、英米を牽制していたが、結局、願いは通じなかった。 アメリカは、「ならずもの国家」とテロリストによる脅威が予見しがたいものであることを正当化の理由としているが、もしそのような主張を認めてしまえば、今後アメリカはほとんどの戦争を任意に単独で行なえるようになるであろう。また、それに乗じて他の大国も、いずれ反対勢力の制圧のために堂々と武力を行使するようになるかもしれない。そうなれば、21世紀の国際法は、強者による力の支配を許す「無法者の法」に成り下がってしまう。数世紀にわたり、戦争の災厄から法により市民を守ろうとしてきた人類の営みが、試練に立たされている。(2003/3/19) (参考資料:毎日新聞3月11日、18日)
《2003年2月》
20日、米商務省は、2002年の貿易赤字が初めて4000億ドルの大台を突破し、過去最大の4352億ドルを記録したことを発表した。減税、軍拡、景気後退で膨張している財政赤字とともに「双子の赤字」問題の再来が懸念されている。 国別の赤字額では、中国向けが第一位であり、過去最大の1000億ドル(前年比24.1%増)を突破した。日本は中国、欧州連合(EU)につぐ第三位で、700億5500万ドル(同比1.5%増)であった。(2003/3/3) (参考資料:毎日新聞2月20日)
2月14日、国連安全保障理事会は、イラクの大量破壊兵器査察に関する国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)の追加報告を受けて15カ国で意見交換を行なったが、武力行使もやむなしとする米英の主張に同調したのはスペインのみで、当面は査察を継続すべきとするフランスなどの主張が多数派を形成した。同日、アメリカ政府は、『テロリズムと戦う国家戦略』と題する報告書を発表して、テロ組織やテロ支援国家に対する断固たる態度の必要性を強調した。こうした中で、イラク攻撃に反対する抗議行動が、世界各地で、過去の反戦運動と比べて前例がないほど急速な広がりを見せている。15日、ベトナム反戦運動以来となる大規模な反戦デモが世界各地で行なわれたのである。 先月18日にもアメリカを中心に世界各地で大規模な反戦デモが行われたが、今月15日の抗議行動は、世界約60カ国、400都市で数百万人(ロイターの発表では600万人以上)が参加するものとなった。いまだ起きていない、これから起こりうる戦争に対する抗議行動としては、まちがいなく最大規模といえよう。 中でも政府の対米追従が顕著なことで有名なイギリスでは、15日、そのような政府の姿勢に不満を持つ市民による大規模なデモが行われた。主催者の発表で100万人、警察の発表では50万人以上とされている。一方、政府が査察継続の流れをつくったフランスの首都パリのダンフェール・ロシュロー広場のデモは、それよりは小規模で約10万人が参加した。ドイツでは、政府がイラク攻撃への反対姿勢を鮮明にしており、首都ベルリンで50万人規模のデモが行われた。その中には、現職の2人の閣僚も含まれていた。イタリアでは、政府はブッシュ政権の強硬路線を支持する姿勢を見せてきたが世論との乖離が顕著であり、ローマでの反戦デモは、地元メディアの推計で約100万人が参加する大規模なものとなった。 アメリカでは、9・11以後一時期、政府に対する批判が影を潜めたが、最近では政権批判の声も次第によく聞かれるようになっており、反戦運動も活発化してきている。15日、国連本部のあるニューヨークでは、約10万人が対イラク攻撃に反対するデモに参加し、全米ではデモ参加者は20万人を超えた模様である。イラクの首都バグダッドでは、イラク市民のほか日本を含む外国の団体などによって、推定数十万人(当局発表100万人)の反米・反イスラエルのデモが行なわれた。 日本に関していえば、東京・渋谷で約5000人(主催者発表)、広島では1800人と、西欧諸国と比べるとやや小規模なデモが行なわれた。日本でも世論調査ではイラク攻撃に反対もしくは慎重な意見が多いのだが、それがなかなか行動につながらないという現実が見て取れる。小泉政権の曖昧な態度がマスコミに叩かれた。残念だが、国際社会から見れば日本は国民の考えもわかりにくいにちがいない。(2003/2/17) (参考資料:読売新聞2/16、毎日新聞2/16、ロイター2/16、時事通信2/16)
3日、ブッシュ大統領は、議会に04会計年度の予算教書を提出した。国防予算の増額などによる歳出の増加と、景気後退や大型減税による歳入の減少により、財政赤字は史上最悪の水準となる。かつて80年代レーガン時代の減税と軍拡を経て、92年度に父親のブッシュ元大統領時代が記録した赤字2904億ドルが最高の赤字額であったが、03年度の財政赤字は3040億ドル(約36兆4800億円)、04年度で3070億ドルに拡大する。財政赤字の累積は今後も08年度まで続く見通しで、04年度から08年度までの財政赤字額は総額で1兆ドルを上回る。米財政状況の悪化は、「双子の赤字」問題の再燃やドルの急落につながり、世界経済に悪影響を及ぼすことが懸念されている。 英国際戦略研究所によると、アメリカの国防費は2001年の実績ですでに、世界の2位から11位までの10か国の合計にほぼ等しい水準にあった。そのアメリカがさらに軍拡を進めており、04年度の国防費は4.2%増の3799億ドルが求められた。なかんずくブッシュ大統領が昨年12月、04年度からミサイル防衛の初期配備を発表したことを受け、ミサイル防衛関連予算は前年度より20%(15億ドル)増額の91億ドルが求められている。05年度までに地上配備型の迎撃ミサイル20基、3隻のイージス艦に海上配備型の迎撃ミサイル20基を配備する計画があり、ミサイル防衛局(MDA)は09年度までに計500億ドル近くの予算を要求する方針である。(2003/2/11) (参考資料『毎日新聞』2月4日; 『読売新聞』2月4日;『時事通信』2月4日;
予算教書)
* 0.5%以下 (出典:THE GALLUP POLL TUESDAY BRIEFING -- February 4, 2003)
《2003年1月》
賛成 反対
2003年 1月10-12日 56% 38%
2003年 2月 7-9日 63% 34%
1月28日ブッシュ大統領は、連邦議会で一般教書演説を行った。大統領は厳しい口調でイラクとの対決姿勢を鮮明にした。国内政策では、減税による経済成長、雇用の創出をうたった。『毎日新聞』29日付によれば、演説の骨子は以下の通り。 「一、「無法者の政権」による大量破壊兵器の開発・保有が、最も重大な危険だ。
(参考)ブッシュ大統領就任演説(原文、翻訳);2002年一般教書(原文、邦訳);
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