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トピックス――国際事情・アメリカ事情
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《2002年12月》
《2002年11月》
《2002年10月》
《2002年8月》
《2002年7月》
《2002年12月》
20日、トレント・ロット上院院内総務(共和党)は、人種差別と受け取れる発言をしたことへの批判の高まりを受けて、院内総務を辞任すると発表した。問題の発言は、5日、ストロム・サーモンド上院議員の誕生パーティーにおけるもの。1948年にサーモンド氏が人種隔離政策を掲げて大統領選に立候補して落選したことに触れて「当選していたら、その後のあらゆる問題は起きなかっただろう」と述べた。 ロット氏は繰り返し謝意を表明して辞任を拒んだが、この問題は連日、全米のメディアを騒がせた。12日、ブッシュ大統領は「人種隔離政策を容認するような発言は不愉快で間違っている。ロット氏のコメントは米国の精神を反映していない」と一喝、その後共和党内でもロット氏への批判が高まり、ついに辞任に追い込まれた形だ。後任には、23日にビル・フリスト上院議員が選出される見通しである。 従来、マイノリティ(黒人などの少数民族)は民主党支持者が多かったが、90年代に民主党のクリントン政権がマイノリティ重視から中間層重視に傾斜したことからにわかに民主党離れが生じ、逆に共和党はそれにつけ込んでマイノリティの取り込みを重視するようになっている。共和党としては、2004年大統領選挙への悪影響をおそれて、院内総務の辞任を求めたのであろう。なお、現在のところ、ロット氏は議員辞職はしない模様である。(2002/12/21) (追記)23日、上院共和党は、後任の院内総務にビル・フリスト氏を選出した。 (関連資料:『毎日新聞』12月13日、21日、24日) 最近、ブッシュ大統領に対する侮辱が何らかの処分につながったという出来事が連続して起きた。先月末、イギリスで、ブッシュ米大統領を風刺したテレビCMが、侮辱的な内容であるとの理由で放送禁止処分を受けた。その一週間前には、カナダ首相の女性報道官が、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議における記者団との懇談中にブッシュ米大統領を「まぬけ(maron)」と呼んだことが問題となり、同報道官は騒ぎの責任をとって辞職した。同報道官は、ブッシュ大統領がイラク問題を首脳会議の中心議題にしようとする姿勢を批判したらしい。世界の人々は、いまブッシュ大統領とアメリカに対してどのような意識を持っているのであろうか。最近伝えられた二つの意識調査の結果を以下に記したい。 まず、毎日新聞の報道によれば、4日、米シンクタンク「ピュー調査センター」は、世界44カ国で実施した大規模な意識調査の結果を発表した。この調査で「米国が好き」と答えた人の割合は、99〜00年の調査と比較して27カ国中19カ国で減少した。ドイツでは78%から61%、イギリスでは83%から75%に減った。一方、ロシアでは37%から61%へと増加した。また、「米国の理念や習慣の普及」の賛否については、アメリカ国民の79%が「良いこと」と評価したのに対して、44カ国中34カ国では過半数の人が「悪いこと」と回答した。6カ国で追加的に実施されたイラク攻撃に関する意識調査では、フセイン政権打倒のため軍事力を行使することに、アメリカでは62%が賛成した一方、ロシアの79%、ドイツの71%、フランスの64%が反対した。英国は賛否が47%で並んだ。トルコでは自国の軍事施設提供に83%が反対した。 次に、先月14日ロイターの報道によれば、イギリスのチャンネル4が3200人を対象にブッシュ米大統領とブレア英首相に対する意識調査を行なった。それによれば、イギリス国民の約3分の1が、ブッシュ米大統領の方がフセイン・イラク大統領よりも世界平和にとって脅威とみており、調査対象者のほぼ半数が、ブレア英首相を米大統領に追従する愛犬のようだと見ていることが分かった。同じ調査で、「米大統領と英首相の評価を10点満点で採点すると何点か」との問いには、54%がブッシュ大統領を2点以下、32%が0点と回答した。ブレア首相については、60%が5点以下としている。 これらの調査は、近年世界で反米的な世論が高まっていることを示唆している。ただし、「ピュー調査センター」の調査では、日本に関しては、まだ比較的にアメリカに好意的な見方が強いようであり、フランスでは73%、ドイツでは67%が「米国の理念や習慣の普及」を「悪いこと」と回答したのに対して、日本では「良いこと」が49%を占め、「悪いこと」と答えた35%を上回ったという。(2002/12/10) (関連資料:『毎日新聞』11月27日、12月5日、ロイター11月14日、27日)
6日、オニール米財務長官とリンゼー経済担当大統領補佐官が辞表を提出した。事実上の更迭である。ブッシュ政権は、強力な顧問が顔をそろえる外交・安全保障分野と比べて、経済分野の顧問が貧弱と見られてきたが、2004年の大統領選挙をにらんで、経済顧問の人事の刷新がはかられたのである。 これに続いて、9日、アメリカ政府は、新財務長官に米大手鉄道会社CSXのジョン・スノー会長兼最高経営責任者(63)を充てる人事を発表した。経済担当大統領補佐官の後任には、元ゴールドマン・サックス会長のスティーブン・フリードマンを起用される予定であり、今日(10日)中に発表の見込みである。(2002/12/10) (関連記事:『毎日新聞』12月7日、時事通信12月10日)
11月24日、『正義論』(1971年)などで有名なアメリカの政治哲学者ジョン・ロールズが、心不全のためマサチューセッツ州レキシントンの自宅で死去した。81歳。
11月8日、国連安全保障理事会は、イラクが大量破壊兵器を開発している疑いがある件に関して、イラクに国連査察の完全実施を求める「決議1441」を賛成15の全会一致で採択した。イラク側の対応次第では、英米による武力行使の可能性が高まってきた。 この決議は、国連査察団が査察のためにイラクのすべての施設に無条件で立ち入る権利を求めると同時に、これがイラクにとって「最後の」機会であり、もし協力しない場合には「深刻な結果」に直面せざるをえないと警告している。今後の日程としては、(1)イラクは1週間以内に決議の順守を表明すること。(2)イラクは30日以内にすべての大量破壊兵器の開発計画を申告すること。(3)国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)で構成する国連査察団は、決議採択から45日以内に査察を再開すること。(4)査察団は、それから60日以内に安保理に報告書を出すこと、が定められている。 今回の決議は、英米の主導によるものだが、これまで慎重な姿勢を示してきたフランスの意見が取り込まれ、イラク側に違反がみつかった場合に、いったん安保理で協議することが決められている。7日、この変更を受けて慎重派のフランス、ロシア、中国が決議案の支持へ回り、直前まで棄権が予想されたシリアも最終的には支持に転じたため全会一致の採択となった。 アメリカはすでに先月中旬、議会で対イラク武力行使容認決議を採択しているので、ブッシュ政権にとっては、対イラク武力行使に向けて国内的および国際的な環境が整ったことになる。さらに10日付の『ニューヨークタイムズ』紙によると、ブッシュ大統領は、国連決議の採択に先立つ形で、軍のイラク攻撃計画を承認したと伝えられる。攻撃開始の時期については決断は下されていないものの、武力行使が必要となった場合には、91年の湾岸戦争(43日間)よりも短い期間の空爆と並行して20ないし25万人の兵力を投入するとされている。攻撃対象はフセイン政権であり、民間人や一般の兵士への損害が少なくて済むように精密誘導兵器が多用されることになっている。空爆で使用される精密誘導兵器の比率は、湾岸戦争時の9%から60%以上に増加するという。しかし、民間人の被害を最小限に抑えるというのは常套句であり、現実の戦争ではつねに民間に多大の被害を出してきたのも事実であろう。 9日、イタリアの古都フィレンツェでは、アメリカの対イラク攻撃に反対する50万人規模の反戦デモが行なわれた。日本とヨーロッパの世論の違いを痛感する。ともあれ、アメリカの中間選挙で共和党が勝利したという事実は、ブッシュの政策運営が国内で承認されたことを意味しており、ことここに至っては反戦運動の効力に限界があることは認めざるをえないようにも思われる。アメリカは、瀬戸際政策をとりながら、国内外の世論を戦争ムードに慣れさせ、タイムリミットを決めて実際の戦争に入るという、湾岸戦争時と同じ道筋を着実に歩んでいるように見える。(2002/11/12) (参考資料;読売新聞2002/11/9, 11/10; 毎日新聞2002/11/9, 11/11; 朝日新聞11/11;
New York Times /2002/11/10; asahi.com
対イラク武力行使; Yahoo!ニュース-米国対テロ戦争)
11月5日、アメリカで中間選挙の投票が行われた。中間選挙とは、4年ごとの大統領選挙の中間に当たる年に行われる選挙で、任期2年の下院は全議席、任期6年の上院は定員の3分の1が改選される。一般に、中間選挙は、大統領と政権政党の政策・業績を評価する意味あいを持つが、過去35回の中間選挙で、大統領の所属する政党が下院で議席を伸ばしたことは、議席の総数そのものが増えた1902年を除くと2回しかない。有権者の主な関心は経済を中心とする国内問題にあり、今回のように景気が悪い中で行われる中間選挙は、政権政党に不利に働くことが多い。しかし、今回の選挙は、そのような一般的傾向に反して、ブッシュ大統領の共和党が勝利を収めた。それの背景には、ブッシュ大統領が9・11テロ事件以後、きわめて高い支持率を維持していること、共和党がそれを利用して有権者の目を経済からテロ問題、対イラク政策に向けようとしたこと、大統領の活発な選挙応援が功を奏したこと、などが挙げられる。 下院は435議席のすべてが改選され、上院は定員100のうち約3分の1にあたる34議席(改選前は共和党20、民主党14)が改選された。なお、2000年選挙では上院の勢力は50対50であったが、2001年5月に共和党のジェフォーズ氏が離党し、先月、事故死した民主党のウェルストン氏の後継者として独立系のバークリー氏が指名されたため、49対49となっていた。ジェフォーズ氏の離党以来民主党が上院の多数派を形成してきたが、今回の選挙では共和党が逆転して多数派となったため、上院における各種の委員会の委員長は民主党から共和党の議員に入れ替えられる。死亡した民主党ウェルストン氏の地元ミネソタ州では、副大統領や駐日大使を歴任した民主党のモンデール氏(74歳)が立候補して注目を集めたが、同氏の高齢を批判する対立候補のコールマン氏に破れて、共和党に議席を譲り渡す結果に終わった。下院では、共和党がもともと多数派であったが、今回の選挙でさらに差を広げた。投票結果は以下の通りである。 なお、今回の投票でルイジアナ州の上院選挙では過半数を超える得票をえた議員がいなかったために、12月7日に決選投票が行われる予定である。また、ハワイ州2区の下院議員選挙では、選挙前に死亡した民主党候補のミンク氏が当選したが、議席は空席扱いとなり、来年1月4日の補欠選挙が行われる予定である。(2002/11/7)
(関連資料:毎日新聞2002/11/5, 11/7; 朝日新聞2002/11/7;Yahoo!ニュース
- アメリカ中間選挙; 在福岡米国領事館選挙速報;
washingtonpost.com Elections 2002; The
New York Times Campaigns)
《2002年10月》
アメリカ連邦政府の財政が97年度以来5年ぶりに赤字に転落した。24日の政府発表によれば、02年会計年度の財政赤字は1590億ドル(約19兆8000億円)に達した。財政赤字の原因は、ブッシュ政権が昨年度導入した大規模減税、国防予算の大幅な増額、景気の後退などにある。なお、ブッシュ大統領は23日、過去最大規模となる総額3550億ドル(約44兆円)の03会計年度国防歳出予算案に署名した。「テロとの戦い」やイラク攻撃への備えなどを理由に、前年度比370億ドル(約4兆6000億円)、11.8%の増加となっている。(2002/11/1) (関連資料:毎日新聞2002/10/24, 10/25)
10月16日、ブッシュ米大統領は、イラクに対する武力行使の権限を大統領に付与する米議会の決議案に署名した。この決議は、イラクの脅威から米国の安全を守るために、「大統領は必要かつ適切に米軍を使う権限を与えられる」として対イラク武力行使を容認している。ただし、条件として、同権限行使にあたっては大統領が事前または48時間以内に議会に報告するよう求めている。また、イラク攻撃開始後、少なくとも60日ごとに大統領が議会に軍事行動などに関する報告書を提出するよう要請している。武力行使の範囲はイラクに限定している。 この決議については、ブッシュ大統領は、10月2日に下院の指導部と協議し、9月19日に示した大統領草案に一定の制限を加えられたものの、ほぼ大統領草案に沿った内容で同意を取りつけていた。7日、ブッシュ大統領は、翌日に議会での論戦が開始されるのを控えてオハイオ州シンシナティで演説し、イラクが国連決議を履行しなければ武力行使を辞さない考えを改めて強調した。現在の議会は、下院ではブッシュ大統領が所属する共和党が多数を占めているが、上院では民主党が多数を占めている。そこで、特に上院の民主党議員の態度が注目されたのだが、リーバーマン議員らが決議に賛成する一方で、エドワード・ケネディ議員らは反対を表明し、当初ダシュル上院民主党院内総務は判断を留保していた。しかし、10日、下院が決議案を賛成296、反対133で可決すると、ダシュル院内総務も決議案への支持を表明し、11日未明、上院も同じ決議案を賛成77、反対23で可決した。下院における投票の党派別内訳は、賛成が共和党215、民主党81、反対が民主党126、共和党6、無所属1となっている。なお、91年の湾岸戦争に際しての対イラク武力行使容認決議案は、下院で賛成250、反対183、上院では賛成52、反対47であった。 民主党のゴア元副大統領は先月23日にブッシュ政権のイラク政権を批判したのに続き、10月2日には経済政策を批判した。11月に中間選挙を控えて、共和党はイラク問題に、民主党は経済問題に国民の関心を集めたいという狙いがあることが読める。(2002/11/1) (関連資料:ロイター2002/10/17 毎日新聞2002/10/3, 10/8, 10/9, 10/11
読売新聞2002/10/11)
18日、学習院大学名誉教授の本橋正先生が肝臓ガンでお亡くなりになり、本日(21日)、さいたま市元町のご自宅での葬儀が営まれた。享年、78歳であった。 本橋先生のご専門は、フランクリン・ローズヴェルト外交と日米関係史であるが、つねに歴史実証的な立場から外交一筋で研究を進めてこられたアメリカ研究者はわが国では実はかなり珍しいのではないかと思う。流行りの方法論とは無縁の堅実な歴史家という印象があるが、アメリカ外交を「国際政治の場において考察するように絶えず努めた」という本橋先生の視点は、最近の議論と比べて何ら遜色のない古くて新しいものであったといえる。代表的な業績として、『日米関係史研究』(学習院大学研究叢書、1986年)『日米関係史研究II』(学習院大学研究叢書、1989年)、『アメリカ外交史概説』(東京大学出版会、1993年)などの著作がある。 私は、厳密には本橋先生の門下生というわけではないが、学習院大学および大学院在籍時に指導を受け、励まされたことをよく覚えている。私は修士課程にいた頃、F・ローズヴェルト大統領は従来言われてきた以上に反ソ的な大統領であったというM・シャーウィンの主張に疑問を抱き、一見きわめて実証主義的に見えるシャーウィンの詳細な研究が実は彼自身の主張を実証していないということを、本橋先生の授業で発表した。シャーウィンは、原爆問題を事例としてそのような主張をしていたのだが、私自身の見解は、ローズヴェルトはかならずしも反ソ的であったのではなく、プラグマティストとして複数の選択肢を競争させながら積極的に選択を回避し、決定を遅らせていたのだ、というものであった。私は、ローズヴェルト外交の専門家である本橋先生に「私もそう思う」とおっしゃっていただいたことに勇気づけられて、数年後、その研究を博士論文にまで発展させることができた。 本橋先生が学習院大学を退職なさってからは、もっぱら手紙だけのおつきあいとなったが、最後にいつも「ご研鑽をお祈りします」「ご業績をお祈りします」と励ましの言葉をいただいた。その都度、先生の温厚なお顔を思い出しながら、自らの怠惰を恥じ、反省したものである。本橋先生のご冥福を心よりお祈りしたい。
21世紀最初の歴史的大事件、「9・11」米中枢同時多発テロ事件からちょうど一年が経過した。1機目の乗っ取り機(アメリカン航空11便)が世界貿易センタービル北側タワーに突入したのは現地時間午前8時46分(日本時間午後9時46分)のことであった。いったいあれから何が変わったのか。あるいは、何が解決されたのか。 テロ事件の犠牲者数は、6000人以上という当初の予想値から徐々に引き下げられ、今月、米ニューヨーク市検視当局は、世界貿易センタービル倒壊の犠牲者数を2801人と発表した(ただし、国防総省へのテロ犠牲者184人を除く)。民間団体BBBの調べによれば、義援金を集める団体が全米で約470活動し、そのうち270団体だけで約2880億円にのぼった。計算上、死亡者一人あたり約1億円である。義援金とは別に米政府の補償金が平均約185万ドル(2億2200万円)が支給される。ただし、生命保険などの支払額があればその分が差し引かれるので不満を持つ多くの遺族は受け取りを拒んでいるという。(ロイター9月7日、朝日新聞9月11日) 行政管理予算局(OMB)の発表では、同時テロ事件に直接関連する米政府の支出はこの1年間で1020億ドル(約12兆2400億円)に達した。ただし、アルカイダ掃討作戦はまだ終了していないし、ビンラディン氏の所在も明らかでない。不確かな情報だが、パキスタン軍情報機関(ISI)のある筋によれば、ビンラディンはアフガン南西部付近に潜伏しているが、米軍は「『対テロ戦争』を続ける大義を失わないために、ビンラディン氏だけは泳がしているようだ」ともいわれる。(時事通信9月11日、毎日新聞9月11日) 一方、アフガニスタンで展開された報復戦争での犠牲者数は定かでない。米ニューハンプシャー大学のマーク・ヘロルド教授の試算によれば、アフガニスタン民間人の犠牲者は今年初めの時点で4000人以上にのぼるといわれ、テロ事件の犠牲者を大きく上回っていると見られる。アメリカの誤爆によって殺害されたアフガニスタン人の遺族に対しては約13万円しか支払われないという。(Wired News 2002年1月4日、『朝日新聞』3月10日) 同時多発テロ以来、従来の国家対国家の対立ではない非対称な紛争への脅威が叫ばれている。実はその種の議論は、専門家の間ではこの10年来行われてきたものだが、今回の事件を機に、国際安全保障の面で非国家主体が一般にも注目されるようになったことは、国際政治上の重要な変化であるといえる。テロリストやテロ支援国家が大量破壊兵器を入手する危険が取り沙汰され、いまや、ミサイル防衛の配備や、小型核兵器を用いた先制攻撃や、イラクへの軍事攻撃が公然と論じられている。それと同時に、アメリカは善であり、その敵は悪であるという善悪二元論がまき散らされ、その建前で進められるアメリカの一国支配にたいする反発も強まっている。 実際、アメリカ側から見た非対称の脅威が存在するのであれば、その逆側から見た非対称の脅威も存在するのではないのか。アメリカは、他国の核兵器の開発を阻止するために自国の核兵器を使用するかもしれないと脅している。これは非核保有国にとっては非対称な脅威である。今日ニューヨークで行われる追悼式典では、犠牲者全員の名前が読み上げられる予定であるが、アフガニスタンの報復戦争での犠牲者たちの名前はわからない。両国の遺族に渡される保証金には2000倍もの差がある。このような格差も非対称な脅威ではないか。 最近、国務省は、世界の反米主義の実態調査を開始したが、もし「アメリカは善であるのに、なぜ嫌われるのか」という発想であるならば、あまり有意義な結果は得られないであろう。今月初め、ブッシュ大統領は南アフリカで開催された環境・開発サミットを敬遠し、代わりに出席したパウエル国務長官が演説を中断させられるほどの罵声を浴びせられたばかりである。(毎日新聞8月29日、9月4日)
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「大人が悪いことをしてくれて感謝します。 おかげで〔子どもの〕いたずらが目立ちません」 (米国アニメ『ザ・シンプソンズ』より)(8/30) アメリカ的な健康ブーム、禁煙ブームに背を向けて、愛煙家を自認してきた私も、今日、8月3日で禁煙一周年を迎えた。20年間毎日欠かさず、近年では1日2箱の煙草を嗜んでいたが、年中のどの具合が悪く咳き込んでいたうえ、のどの炎症が悪化して耳まで痛めてしまった。そして、昨夏2度吐血したのを機に、禁煙を試みることに決めたのである。当時はまだニコチン入りの禁煙ガムが認可されていなかったので、通院してニコチンシールを購入し、利用した。以来、目に見えて体調がよくなり、食事の量も増え、体力がついた。かつて指導教授に「欠食児童」とからかわれた痩身も、かなり標準の体型に近づいてきたように思う。ただ、現在でも煙草を吸いたい気持ちはなくならない。禁煙補助のための「パイポ」やガムを、いまもなお欠かすことができない。さらに、禁煙による弊害もある。人生の楽しみが減り、感性が鈍り、気分転換が難しくなり、集中力を持続しづらい。もともと乏しい創造性がさらに乏しくなりそうなのが怖ろしいが、明け方に耳が痛くなったり、吐血するのもいやだ。困ったものである。いまでも、アメリカ的な健康ブーム、禁煙ブームは如何なものか、と思う気持ちは変わらない。「健康のため吸い過ぎに注意しましょう」というJTの注意を守れればよいのだが……。(2002/8/3) (補足)今年7月ニューヨーク市は、たばこ1箱当たりの市税を8セントから1ドル50セントに引き上げる大幅増税を実施した。その結果、多くの銘柄で1箱7ドル(約850円)以上になり、市内のたばこの販売が半減した。(『毎日新聞』8月7日より)
《2002年7月》
8日にホワイトハウスで行なわれたブッシュ大統領の記者会見で興味深い質問があった。記者の質問は「大統領は(米中枢テロ後のテロとの戦いで)これは正義であって復讐ではないと述べている。正義と復讐はどう違うのか」。ブッシュ大統領はこの質問に対して、アメリカの報復行動をどのように正当化したのであろうか。 『西日本新聞』(7月10日)によれば、大統領の答えは、次のような「迷回答」であった。「正義と復讐? それは態度の違いだ。それは、心の持ちようの問題だ。人々を守るため、何千人もの人を殺したものに責任を取らせるためには、時に(テロリストの)命を取ることもある」。いやはや、アメリカの「正義」とは、「心の持ちようの問題」であったのか。会見後、記者たちからは「世界を動かす大統領として、もうちょっとましな答え方はないものか」との声が聞かれたという。 ここで注意したいのは、アメリカの報復作戦もまた、無実の人々に多大な犠牲を強いるものであったことである。いやアフガニスタンにおけるアメリカの報復作戦はまだ完全には終了されていないのであり、今月1日にもアフガン南部のウルズガン州で米軍による誤爆事件が起こり、約40名の市民が死亡したことが伝えられたばかりであった。ブッシュ大統領は、カルザイ大統領に弔意を示したが、なぜそのような犠牲が許されるのか、アメリカの「正義」についてより明確に説明する義務がある。先に引用したブッシュ大統領の言葉は、最悪の場合、そっくりそのままテロリストによる再報復の論理としても用いることのできる内容なのである。(2002/7/20)
(追記)2002年8月28日までにまとめられた国連調査報告書によれば、ウルズガン州における米軍誤爆事件の犠牲者数は「約80人」であり、これまでの推定値(約40人)を大幅に上回ることが明らかになった。(『読売新聞』2002年8月29日)(2002/9/11)
7月1日、アフガニスタン南部のウルズガン州で米軍による空爆が行われた。その際、同州の4村が攻撃対象となり、一般市民48人が死亡、117人が負傷した。米国防総省当局者は、米軍が投下した爆弾のうち少なくとも1つが目標からそれたことは認めたが、今回の事件との関連性は不明だとしていた。 アブドラ外相は米軍の攻撃理由について、アル・カイーダやタリバンなどの潜伏情報があったこと、米軍に向けた対空砲火があったことを説明している。誤爆については、爆撃機のパイロットのミスである可能性を指摘している。しかし、米軍の作戦自体については、テロ掃討における米軍の空爆は今後も必要であると理解を示している。 米軍による誤爆は今回が初めてではない。米『ロサンゼルス・タイムズ』紙によると、昨年10月から今年2月末までに、市民が死傷した誤爆事件は計194件起きている。死傷者は1,067人から1,201人に上る。アメリカへの批判も強まり、アフガニスタンの民間活動団体は4日、今回の事件に対する抗議集会をカブールの国連事務所前で開き、米軍に対して再発の防止と犠牲者の遺族への補償を強く求めた。また、暫定政権内部でも疑問の声が出ている。テロ掃討や治安維持のために米軍の支援を必要とするカルザイ政権が、誤爆に対する断固たる批判を控えているからである。暫定政府国防省のナジル・アハマド次官は、誤爆の原因を事前通告なしで掃討作戦を行ったからだとしている。また、誤爆防止のために協力することを米軍に強く要請すべきだと政権を非難している。 今回の誤爆を完全には認めていなかったアメリカは6日、アフガニスタン暫定政府と共同記者会見を開いた。米軍のマクニール司令官は、米軍機などが攻撃を受けたことを示す多くの証拠を示しながらも、「無実の市民が死亡したことは事実だ」と語り、事実上誤爆を認めた。 去年9月11日のアメリカ同時多発テロから10カ月がたち、人々のアフガニスタンへの関心は薄まっている。しかし、米軍の誤爆によって、罪のない1,000人以上もの市民が死傷しているのが現実である。アメリカは暫定政権と協力し、誤爆の防止に万全を期すとともに、犠牲者の遺族に対して謝罪と補償をするべきである。(2002/7/8, 7/30 rev. 増田修一) (参考文献:『読売新聞』2002年7月3日、5日、6日)
先週末は、ハーバード大学の入江昭教授の講演を聴講し、今週末は、斎藤眞先生(東京大学名誉教授)の報告を聴講してきた。私のように学界の末席にいるものには遠い存在で、親子以上に年の差があり、私が一方的に献本したことがあるだけで面識はない。日記代わりにメモを残しておこう。 入江昭先生の講演「グローバル時代の日米関係」は、グローバル化が不可避な現象であり、その否定的な側面については国家レヴェルのみならず民間レヴェルでの取り組みが期待されるという論旨であった。質疑応答では、いずれグローバリズムの進行とともに、国籍の違いが今日のような意味を持たなくなる日が来るにちがいないとの信念も語られた。本来的に啓蒙的な講演であったともいえるが、マルク・ブロックがいうところの「程度の高い平易さ」が感じられる講演であった。 斎藤眞先生の報告「英帝国の構造と米連邦の構想――多文化性と帰属意識」は、アメリカ政治研究会の20周年研究会で行われたものである。こちらは、専門家向けの報告であり、聴衆は40歳代から60歳代の学者が多かった。内容的には、植民地ごとの帰属意識を超えていかにしてアメリカへの帰属意識がつくられたのか、また、イギリスへの帰属意識がいかに放棄されたのか、という観点から専門的な議論が展開された。結びの部分では、アメリカ人がアメリカ的価値への信奉によって統合されていると同時に、外敵の存在とともに「内なる敵」が意識される多文化社会では時に過剰なまでの忠誠の自己表明が行われるとの指摘がなされた。 それぞれに主催者の違う別々の企画であったのだが、私の中では、アメリカをホームグラウンドとするアメリカ史の大家と、日本をホームグラウンドとするアメリカ史の大家による連続講演であり、実に贅沢な週末の過ごし方であった。
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