国際政治・アメリカ研究

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2003年下半期2003年上半期2002年下半期2002年上半期2001年下半期2001年上半期



《2003年12月》
小型核の研究解禁と核実験禁止をめぐる動き
フセイン元大統領の拘束
米、メディケア改革法の成立

《2003年11月》
ブッシュ大統領、中東の自由化・民主化を推進する新政策を表明
割れるアメリカ世論――大統領選挙を1年後に控えて

《2003年10月》
アメリカの中絶論争――部分出産中絶禁止法案が議会を通過

《2003年9月》
ブッシュ大統領とイラク戦争への支持率のさらなる低下
「水爆の父」エドワード・テラー死去

《2003年8月》 
58回目の原爆忌に寄せて
ブッシュ大統領の支持率低下

《2003年7月》 
米財政赤字2年連続最大記録更新
米国防総省、超音速無人攻撃機の開発を検討(滝川浩副)



《2003年12月》

小型核の研究解禁と核実験禁止をめぐる動き

 11月24日、ブッシュ大統領は、総額4013億ドル(約43兆7000億円)にのぼる2004会計年度の国防予算案に署名し、同法は成立した。前年度に続きレーガン政権以来では最大の記録を更新した。この予算案では、特に、小型核の研究を10年ぶりに解禁したことが注目される。また、12月1日には、小型核の研究予算を盛り込んだ総額273億ドルのエネルギー省関連歳出法案に大統領が署名、同法が成立した。(読売新聞11月25日、共同通信12月2日)

 冷戦の終結後、アメリカ議会は、新型核兵器の開発に慎重な姿勢を示し、広島型原爆の約3分の1にあたる小型核の研究・開発を禁ずる「ファース・スプラット条項」を93年に設けていた。しかし、今年4月ブッシュ米政権が、同条項の廃止を2004会計年度国防予算案に盛り込むよう議会に提案し、民主党を中心とする反対派とのやりとりのなかで、議会では小型核の「研究」を認め、開発については議会承認を必要とする形で5月に妥協が図られていた。(共同通信4月19日、5月22日)

 ブッシュ政権は、議会の承認を求めるにあたって「研究に限定しており開発や使用は想定していない」と説明してきたが、12月、国防総省の諮問機関「国防科学委員会」が、実戦での使用も視野に入れた提言をまとめていた事実が明るみに出た。国防科学委員会は、ラムズフェルド国防長官の側近と言われるウィリアム・シュナイダーが委員長を務める組織で、『毎日新聞』は、地中貫通型の小型核の導入を進めるよう勧告する同委員会の報告書『将来の戦略的攻撃部隊』(8月15日付)を入手したことを報じた。地中貫通型の小型核は、地下に潜伏するテロ組織の攻撃を想定したもので、米軍はそれを「使える核」と見ているのではないかとの議論を呼んでいる。『毎日新聞』が11月25日に入手した米議会調査局(CRS)の報告書では、ブッシュ政権が研究を解禁した小型核兵器は、軍事的効果が不確かなうえ、地中貫通型でも、大量の死の灰をばらまき民間人に多くの死者を出す可能性があるとも指摘されている。(毎日新聞12月11日、11月26日)

 新型小型核の研究が解禁される一方で、政府内では、アメリカが批准せず未発効となっている包括的核実験禁止条約(CTBT)についての議論も、にわかに盛り上げっているようである。ラドメイカー米国務次官補(軍備管理担当)は12月16日、CTBTに関連して、当面核実験のモラトリアムを維持する方針を確認しながらも「現実問題として核実験を続けることに米国として潜在的な利益がある」ことを明言した。しかし、その一方で24日、米戦略軍は、新型核兵器の開発に必要な核実験の再開は議会や国際世論の反発から極めて困難であるとして当面見送り、冷戦時代に開発された小型戦術核をモデルに研究を進める方針を打ち出したことが議会筋から明らかにされた。CTBTについては、共和党内に根強い反対論がある。(共同通信12月17日、12月24日)(2004/1/12)
 


フセイン元大統領の拘束

 イラク現地時間の12月13日午後、米軍にティクリット近郊の農家にフセイン元大統領が滞在しているとの情報が米軍に通報され、その日の夜、フセイン元大統領は拘束された。ブッシュ米大統領は14日、ホワイトハウスで国民向けに緊急テレビ演説し、正式に発表した。今年5月1日の「大規模戦闘終結」宣言以来、イラク攻撃の理由とされた大量破壊兵器が発見されず、ブッシュ政権は苦しい立場にあったが、フセイン元大統領の拘束によって、大統領の支持率は6割前後まで上昇した。また、19日には、リビアが大量破壊兵器の廃棄を約束したことも発表された。2004年の大統領選挙に向けて、ブッシュ大統領に追い風が吹いている。
 
 12月16日、ブッシュ大統領は、イラクのフセイン元大統領の処遇はイラク国民が自ら決める問題との見解を示しながらも個人的な見解としては「極刑にすべきだ」と語り、波紋を呼んだ。国連のアナン事務総長やヨーロッパ諸国の政府関係者の多くは、死刑に反対している。1月7日、イラク統治評議会のパチャチ議長は、フセイン元大統領の裁判のために「たくさんの証拠を収集する必要がある」とし、裁判開始までに1、2年はかかるとの見通しを示した。9日、国防総省は、米軍が身柄拘束しているイラクのフセイン元大統領が捕虜の取り扱いを定めているジュネーブ条約に基づいた「戦争捕虜」であると正式に認定した。(2004/1/12)

(参考資料:共同通信12月15日、12月17日、12月20日、1月10日、ロイター12月18日、読売新聞1月8日)
 


米、メディケア改革法の成立

 共和党は、高齢者票を取り込むためにメディケア改革を重要課題に掲げてきたが、ブッシュ大統領は12月8日、高齢者医療保険(メディケア)改革法案に署名し、改革法が正式に成立した。38年ぶりの大幅改正となる。1965年にメディケア制度が発足して以来、外来処方薬代が政府補助の対象外であったが、今回の改正によってそれが支出されるようになる。(2004/1/12)
 
(参考資料:共同通信12月9日)
 
 

《2003年11月》

ブッシュ大統領、中東の自由化・民主化を推進する新政策を表明

 6日、ブッシュ大統領は、アメリカが中東において半世紀にわたり政治的自由を認めないような政権を支持してきたことを批判し、中東全域で自由を推進する新政策を採択したことを発表した。大統領は、その演説のなかで、「中東の心臓部にあるイラクにおける自由の確立は、グローバルな民主化革命における分岐点となるであろう」という野心的な言葉を述べている。これは、かねてからネオコンが目標としてきた中東全体の民主化を、大統領がみずからの政策として採択したことを意味している。

 中東の自由化・民主化を求める政策がアメリカ政府内で支持されるのは、それが、第一に石油の安定供給に役立ち、第二にアメリカのための新しい市場を拡大することになり、第三にイスラエルの安全の確保にも役立つからである。こうした政策の根底には、自由化が進めば平和が促進されるという自由主義哲学があり、また、アメリカがその流れを形成するのは神に与えられた使命であるといういくぶん独善的なメシアニズムがある。

 ブッシュ大統領は、この演説の中で「自由はそのために戦うだけの価値があり、死ぬ価値がある」ものだとも述べている。こうした発言の背景には、5月に事実上の戦闘終結宣言がなされたあとも、フセイン政権の影響力が強い「スンニ・トライアングル」と呼ばれる地域を中心にイラク人の反米軍事行動が続いており、米軍の被害の増大にアメリカの国内世論が反発していることがかかわっている。(2004/1/10)

(参考資料:"President Bush Discusses Freedom in Iraq and Middle East," November 6, 2003, White House Home Page; ロイター11月7日ほか)

(追加、大統領演説の訳文)2004/2/11
 


割れるアメリカ世論――大統領選挙を1年後に控えて

 2004年大統領選挙の話題が次第に関心を集めている中、ワシントンポスト紙とABCが10月下旬に行った世論調査によれば、ブッシュ政権に対するアメリカ国民の評価は二分されている。全体としては、政権を「支持する」が56パーセント、「支持しない」が42パーセント、無回答が2パーセントであった。ただし、下記のとおり、特定の争点についてみると、主要な争点のほとんどで支持が半数に満たないことがわかる。

            支持  不支持  無回答
 テロとの戦い      63        35         2
 イラク情勢          47        51         2
 外交                 49        47         4
 税金                 41        53         6
 財政赤字           32        61         7
 経済                 45        53         2

 ここで興味深いのは、「テロとの戦い」と「イラク情勢」の支持・不支持の逆転である。「テロとの戦い」を支持するかと問われればかなりの国民が「支持」を表明するが、イラク情勢の泥沼化を目の当たりにして、イラク政策の現状に対しては過半数の国民が不支持の態度を明確にしていることが分かる。

 イラク戦争そのものに対する評価としては、国民の54パーセントがなおもやる価値があったと考えている。ただし、この数字は支持政党によって大きく変化している。共和党支持者の間では、戦争支持が実に81パーセントを占めるが、民主党支持者の間では、支持は30パーセントにすぎない。インディペンデント(支持政党なし層)の間でも、支持は48パーセントにとどまっている。(2003/11/15)

(参考資料:Washington Post, Sunday, November 2, 2003; Page A01)
 

《2003年10月》

アメリカの中絶論争――部分出産中絶禁止法案が議会を通過

 アメリカでは、1973年に最高裁が「ロー対ウェイド事件」で女性の中絶権を認めたが、それ以来、中絶反対派(生命尊厳派=Pro-Life)の宗教団体や保守派の団体の活動が目立っている。そうした中で、最近、妊娠後期の中絶方法の一つ「部分出産中絶(Partial Birth Abortion )」を禁止する法案が、連邦議会で採決にかけられた。この法案で禁止の対象となる中絶の方法は、妊娠5、6カ月頃の胎児の頭部を妊婦の体外に引き出し、胎児の頭部にハサミで穴を開けて死亡させる方法で、中絶反対派からは「殺人と同じだ」との厳しい批判があった。現在、この方法による中絶は年間で数千件実施されているといわれるが、法案が成立すれば、この方法で中絶手術を実施した医師は、禁固2年以下に問われることになる。

 アメリカでは、民主党に中絶容認派(選択自由派=Pro-Choice)が多く、共和党に中絶反対派が多い。1994年選挙で共和党が歴史的な勝利を収めて以来、中絶容認派は苦戦を強いられてきた。クリントン政権期には、大統領が2度にわたって拒否権を行使したため、法案は成立を見なかったが、ブッシュ大統領は同法案への支持を明確にしており、73年に最高裁の判断が下されて以来、部分的にでも中絶を禁止する法案が初めて成立する見込みである。下院では3日に281対142で法案が可決され、上院では21日に64対34で可決された。今後、中絶容認団体が違憲訴訟を起こすのは必至であり、来る大統領選挙でも大きな争点になることは間違いない。(2003/10/30)

(追記:同法案は、11月5日にブッシュ大統領が署名し、成立した。ただし、同法に対しては、一部の医師や女性の権利団体などが強く反発しており、ネブラスカ州連邦地裁とニューヨーク州連邦地裁は法律の施行を一時差し止める命令を出した。2003/11/11)

(参考資料:毎日新聞10月22日、ロイター11月7日)
 
 

《2003年9月》

ブッシュ大統領とイラク戦争への支持率のさらなる低下

 9月23日のギャラップ社の発表によれば、ブッシュ大統領の支持率は、テロ事件以前の水準を下回る、就任以来最低の50パーセントを記録した。不支持は47パーセントであった。大統領の支持率の低下の背景には、イラクでの米兵の損害の増大や、史上最大の財政赤字を抱えながらのイラク関連追加予算の問題があると見られる。2004年の大統領選挙に向けて、現時点ではなおも僅差で現職有利という調査結果はあるものの、共和党ブッシュ陣営にとっては雲行きがあやしくなってきた。

 イラク戦争の大義とされた大量破壊兵器の脅威が証明されないこともあり、アメリカ国民は、イラク戦争の正当性をいっそう疑うようになっている。野党民主党内では、イラクとの開戦を強く訴えていたウォルフォウィッツ国防副長官らネオコンの責任を問う声も強まっている。ギャラップ社の調査では「イラク情勢は戦争に値するか」との問いに対して、積極的に戦争を支持するアメリカ国民は、いまや50パーセントにすぎなくなっている。
             戦争に   戦争に
             値する      値しない      無回答
           (戦争支持) (戦争不支持)  
2003年9月19-21日      50%         48%           2%
2003年8月25-26日      63           35             2
2003年7月25-27日      63           34             3
2003年6月27-29日      56           42             2
2003年4月9日            76           19             5
2003年3月24-25日      68           29             3
2003年1月3-5日         53           42             5

(出典:"Americans Grow More Doubtful About Iraq War: Bush approval also drops to term low," September 23, 2003, The Gallup Organization <http://www.gallup.com/poll/releases/pr030923.asp>).
(2003年9月23日)

(参考資料:Gallup Organization Home Page、共同通信9月17日など)
 


「水爆の父」エドワード・テラー死去

 「水爆の父」として有名なアメリカの物理学者エドワード・テラーが、9日、カリフォルニア州スタンフォードで死去した。享年95歳。

 テラーは、ナチスの迫害を逃れてアメリカに渡ったユダヤ系ハンガリー人亡命科学者で、第二次世界大戦中、原子爆弾の開発計画に参加した。テラーは、広島・長崎という都市の人口に向けて原爆が使用されたことは過ちであったと発言する一方で、一貫して核兵器の抑止効果に強い期待を寄せていた。戦後、トルーマン政権に水素爆弾の開発を勧告し、「水爆の父」と呼ばれるようになった。1980年代には、レーガン政権のスターウォーズ(SDI)計画の推進を強力に支持し、冷戦後もミサイル防衛(MD)推進派を貫いた。(2003/9/13)

(参考資料:共同通信9月10日ほか)
 

《2003年8月》 

58回目の原爆忌に寄せて

 8月6日、広島では、58回目の原爆忌を迎えた。今日もなお、核兵器をはじめとする大量破壊兵器の脅威はなくなっておらず、核問題に対するわれわれの取り組みのあり方が改めて問われている。 

 ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と述べたフセインのイラクは、大量破壊兵器の脅威を理由にアメリカの先制攻撃によって政権を転覆させられた。ブッシュ大統領は、イラク戦争の正しさを声高に主張し、今後も先制攻撃戦略をとり続ける姿勢を崩していないが、今年の一般教書で指摘したイラクのウラン購入疑惑は虚偽であったことが判明し、議会やマスコミで問題となっている。 

 ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と述べた国は、イラクのほかにも北朝鮮とイランがある。周知のとおり、北朝鮮では核開発疑惑が取り沙汰されており、イランについても2006年までに核兵器を開発できそうであるとの見方が強まっている。こうした中で、2003年版の日本の防衛白書では、ミサイル防衛を導入する必要性が強調された。しかしながら、ミサイル防衛は、技術的な効果が証明されていないうえ、もし日米による対中封じ込めの一環と見なされるならば、中国からの反発を免れないものでもある。一方、アメリカでは、ミサイル防衛のみならず、先制攻撃で威力を発揮するであろう新型の小型核兵器の開発が検討されている。今日(8月7日)から、核実験の再開を含め、アメリカの新しい核兵器政策を検討する政府・軍部の幹部による秘密会合が、ネブラスカ州の空軍基地内で開催される予定である。 

 近年、ブッシュ政権の動向や北朝鮮の情勢のために、核軍縮への努力は困難に突き当たっている。今年6月から7月にかけて共同通信が広島、長崎の被爆者1109人に行なったアンケートによれば、核廃絶への悲観論と核兵器使用に対する危機感が強まっていることがわかった。核廃絶は不可能だと思う人は54.5パーセントにのぼり、そのうちの半数近くは「以前は可能と思っていたが、今は不可能と思う」ようになったという。悲観的な見通しを持つようになった時期は2000年以降が多く、冷戦期の方がまだ核廃絶への希望を持っていたことをうかがわせる結果となっている。 

 同じアンケート調査では、核兵器が再び使用される可能性は低いと考える人は16.5パーセントであるのに対して、「高い」「やや高い」の合計は42.1パーセントにのぼった。しかし、だからといって、そのような核の脅威の認識に照らして、わが国はアメリカに追従し、ミサイル防衛の配備を急ぐべきであるのか。そのことがむしろ日米に対する反発を強め、中国の核軍拡をさらに刺激し、極東情勢を不安定化させる要因とはならないのか、慎重に検討する必要がある。(2003/8/7) 

(参考資料:共同通信8月3日、8月5日) 
 


ブッシュ大統領の支持率低下

 『ニューヨーク・タイムズ』紙とCBSテレビが2日に発表した最新の世論調査によると、ブッシュ大統領の支持率は54パーセントで、5月に行なわれたの前回の調査に比べて13ポイントも低下していることがわかった。7月13日から27日まで、全米の3092人の成人を対象に電話で調査した。大統領の支持率が低下した主な原因としては、経済の先行き不安、イラク戦争前の情報操作疑惑、イラク占領政策における米兵の犠牲の続出などが考えられる。 

 ブッシュ大統領が事実上の戦闘終結を宣言した5月1日以降、イラクで死亡した米兵は8月2日現在53人にのぼっている。ブッシュ政権の外交政策への支持率は依然として52パーセントという高水準を維持しているものの、アメリカは外国の独裁政権を変え民主化を進めるべきだと答えた人は5ポイント減って24パーセント、「関与すべきでない」は10ポイント増えて58パーセントに上昇している。 

 一方、経済政策への支持は、3ポイント低下して40パーセントとなり、実に52パーセントもの人が不支持を表明している。それに応じて、大統領の不支持率も26パーセントから41パーセントへと急上昇した。 

 ブッシュ大統領は、来年11月の大統領選に向けて2億ドル(約239億円)の集金を目標に、6月から本格的な選挙資金集めに入った。大幅減税など高額所得者に有利な政策をとるブッシュ氏の集金力は抜群であり、再選対策本部は7月1日、今年4月から6月までにパーティー券購入やインターネットを通じた寄付などで選挙資金約3420万ドル(約40億8000万円)を集めたと発表した。民主党陣営では、ディーン前バーモント州知事が同期間にインターネットを通じた寄付を中心に約750万ドル(約9億円)を集めてトップに立ったというから、その差は大きい。しかし、今後、アメリカ経済の回復が遅れれば、選挙戦に大きな影を落とすのは避けられない状況である。(2003/8/7) 

(参考資料:共同通信7月2日、8月2日、8月3日、時事通信8月3日) 
 
 

《2003年7月》 

米財政赤字2年連続最大記録更新

 15日、アメリカ政府は、2003会計年度(2002年10月?2003年9月)の財政赤字が、4550億ドル(約53兆円)に達し、過去最大の規模となる見通しを示した。アメリカの財政赤字は、父親のブッシュ政権の時代に拡大し、1992年度に過去最大の2904億ドルを記録したのち、クリントン政権期にはいったん解消されていた。しかし、現ブッシュ政権の下で、大型減税の導入と景気後退による税収減などにより、再び過去最悪を記録した。2004年度には4750億ドルへと膨らむ見通しで、このまま行けばアメリカの財政は危機的な状況になる。 

 19日、ブッシュ大統領は恒例のラジオ演説で、減税で景気を浮揚させ歳入を増やすとともに、歳出の規律を維持することが「財政赤字を縮小させる最も確実な方法」であると指摘し、「今後5年間で財政赤字を半減させることは可能だ」と述べて、経済運営に自信をのぞかせた。 

 ブッシュ政権における財政赤字の拡大の一因は、イラク戦の戦費と軍事予算の大幅な拡大にある。イラク戦争とその後の米軍のイラク駐留にかかった経費の総額は480億ドル(約5兆6000億円)に上る。そして、こうした財政状況の中でも、共和党主導の下院は、ほぼブッシュ米大統領の要求していた通り、3690億ドルの次会計年度の国防予算を可決したばかりである。(2003/8/7) 

(参考資料:ロイター7月9日、共同通信7月16日、7月19日) 
 


米国防総省、超音速無人攻撃機の開発を検討(滝川浩副) 

 現在米軍では無人機が非常に重要視されてきている。2001年12月には、ブッシュ大統領自ら「無人機が足りない。あらゆる種類が重要になってきた」と述べたほどである。先日起きたイラク戦争では、戦争開始から米空軍の無人偵察機グローバルホークが交代で24時間、司令官に状況を伝える任務をこなしてきた。そして、4月22日、イラク南部で無人偵察機プレデターが、イラク軍へミサイルを発射した。搭載カメラの映像を見ながら、イラク国外とみられる非公開の場所に駐留する部隊が遠隔操作したと言われている。 

 さらに7月1日、米国防総省が、米本土から世界中どこへでも2時間以内に到達して標的を攻撃する「極超音速無人巡航機」(HCV=ハイパーソニック・クルーズ・ビークル)の開発を検討していることが分かった。米国防総省の国防先端研究計画局がホームページで公表した案によると、HCVは通常の軍用の滑走路で離陸可能な機体で、音速の5倍以上のスピードで飛行でき、米本土から9,000マイル(約1万4,400キロ)も離れた標的を2時間以内で攻撃することができる能力を持っている。また、約5,400キロ相当の爆弾・ミサイルなどを搭載できるので、遠隔操作で敵対国家やテロリスト集団の標的などを破壊することが可能となる。これは「ファルコン」と呼ばれる計画で、2025年の実用化を予定している。 

 このような新型無人機の開発が実現されれば、アメリカは外交問題の解決に武力をますます安易に使おうとするおそれがある。だが、そうなると、テロリストや敵国は、強いアメリカにますます反発するであろう。無人機の開発は一見米兵の人命救済に役立つものであるように見えるが、ひとたび紛争が起これば米軍側の損害の程度にも予測がつかない部分が出てくる。結局、軍事力の増強では問題の根本的解決にはならないのではないか。(2003年7月9日) 

(参考文献:『朝日新聞』4月22日、『毎日新聞』7月2日、『共同通信』7月3日) 
 


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