国際政治・アメリカ研究

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目 次《2010年1月》

《2009年12月》
日銀の金融緩和策について――円高・デフレ対策(大槻政道)
日本は大学院進学者をどうしたいのか?――雑感「事業仕分け」
オバマ大統領、ノーベル平和賞受賞(一條麗)

《2009年11月》
「子ども手当」と財源問題(水出真衣)
読谷村ひき逃げ事件――米軍による事件・事故と日米地位協定(松村綾乃)
米軍兵士が抱える心の病(二ツ橋綾花)
八ッ場ダム建設中止マニフェスト(辻明子)

《2009年10月》
世界の農地 囲い込みへ(高村綾香)

《2009年9月》
高速道路無料化、6割反対(森恵里)

 

《2009年8月》
レス・ポールの想い出

《2009年7月》
雇用悪化、労基署パンク寸前(森崎匡一)





《2009年12月》

日銀の金融緩和策について――円高・デフレ対策(大槻政道)

 1日、日銀は、円高とデフレにあえぐ日本経済の立て直しのために、追加的な金融緩和策を決定すべく臨時の金融政策決定会合を開いた。この 会合で日銀の白川総裁は、実質ゼロ金利(0.1%)で10兆円前後の追加経済対策を3カ月にわたって各金融機関に行うことを決定した。そして、この会見の 翌日、総裁は鳩山首相との会合を通じ、政府と一体となって経済対策に乗り出す方針を打ち出した。

 サブプライムローン問題に端を発する経済不況を受けて、アメリカ連邦準備理事会(FRB)は昨年末から史上初めて実質的なゼロ金利政 策をとってきた。投資家のドル離れが進み、ドルキャリー取引による円高が進む中で、輸出依存傾向の強い日本経済は、この状況に耐えられず、不況下において デフレが進行している。

 日本政府は現下の不況を克服するための景気刺激策として、エコカー減税や家電製品のエコポイントなどの政策をとってきた。しかし、そ れらの政策が消費者に浸透する一方で、それによって経済の自律回復が軌道に乗るまでには至っていない。実際、生産・輸出はピーク時の7-8割程度に留ま り、経済が回復しているとは言い難い状況である。そのような折り、先月末にいわゆる「ドバイ・ショック」が起こり、ドルはユーロに対しても全面高の状況と なった。そこで、今回、日銀がついに量的規制緩和に踏み切ったのである。

 円高とデフレに一定の歯止めがかかることが期待されるが、その一方で中長期的な成長戦略の策定が望まれている。(2009/12/9)

(参考資料)日本銀行「総裁記者会見要旨」(2009年12月2日);『日本経済新聞』2009年12月1日;『読売新聞』12月1日
 
 


日本は大学院進学者をどうしたいのか?――雑感「事業仕分け」

 日本は大学院進学者をどうしたいのか。入学生の数ばかり増やして、出口の状況は一向に改善されない。そこへ来て今回、事業仕分けによる若 手研究者育成関連予算の削減が取り沙汰されている。さまざまな学会がこれに反発しているようである。正直にいえば、私自身は、政府の世話になってまで研究 をしようと思ったことがなく、日本学術振興会特別研究員(学振)や科研費の制度を利用したいと思ったこともないという変わり者であるので、予算を削るなら お好きにどうぞという立場である。しかし、就職先が決まっていない若手研究者のための学振の研究助成制度を「生活保護」と言い放つ仕分け人がいたことに は、さすがに心が痛んだ。発言の趣旨がどうであれ、人の人生をどう思っているのか疑いたくなる。これ以上、現在の若手研究者の置かれた状況に対する無理解 が放置されるなら、それを遠因とする自殺等が続発することは避けがたいのではないか。若手研究者を取り巻く状況は深刻である。

 いつの時代も、学問で身を立てるのは難しい。個人の能力や努力だけでどうにかなるほど甘いものではなく、「僥倖」すなわち運(さもな くば強力なコネ)も必要だ。そのことは、ウェーバーが『職業としての学問』を書いた時代から変わらない。ただ、今日、日本の若手研究者が置かれた窮境は、 1990年代以降の政策的な問題がかかわっている。

 日本が国策として大学院生を増やし始めたのは、1990年代初頭のことである。80年代に経済を中心に国際化の波が押し寄せたことを 受けて、90年頃から文部省は修士・博士の数と留学生の数を欧米並みの水準に増やそうと考えたのである。1985年度に大学院生の数は約7万人、1993 年度で約10万人であった。この辺りが大学院生の急増の起点であり、その後10年が経過した2002年度までに20万人を突破した。2009年度現在では 26万人を超えている。この数は1965年度当時の全国四年制大学の入学者数に匹敵する。日本の大学院の入口は、出口に対してあまりにも広くなりすぎたと いわざるをえない。入口を狭めるのか、出口を広げるのか、どちらかの調整が必要であるということは、1990年代初頭にも確実に予見できたはずである。だ が、その調整がまったくうまくいっていないというのが、現在の日本の置かれた状況である。

 現在、日本の大学院生の数は、学部学生数の10パーセント程度であり、その比率でいえばアメリカ並の水準に達したという。そうなる過 程で日本の大学院生の質が下がったといわれるが、アメリカの場合も玉石混淆であるという事情は同じだろう。ただ、アメリカでは、多くの院生が修了後に大学 以外の業界へ就職する道筋ができており、研究者として生き残るためには厳しい競争に晒されるとはいえ博士号取得後にポスドクへ進む道筋もできている。一 方、日本では、理系では修士はよくても博士は企業に必要性が認められない場合が多く、文系に至っては修士・博士とも就職で不利となる場合が多い。この問題 は大学院側のキャリア指導である程度緩和できるとしても、基本的には国の指導で社会の受け入れ体制がつくられていかなければならない。

 日本でポスドクに対応する研究者育成制度としては、学振(PD)があり、若手研究者が切磋琢磨するための基盤を与えている。この制度 を利用して実際に研究職に就く者の比率は高く、概ね有能な人材の育成に役立てられてきたと評価されている。しかし、博士号取得者が増え続ける一方で大学で 研究職に就くための就職口が増えない(減っている)以上、ポスドクへの助成を増やしても構造的な問題が残されるのは確かである。おそらく、仕分け人の「生 活保護」発言は、そのような構造的な問題に対して従来のポスドク支援政策がその場しのぎであると言いたかったのかもしれない。しかし、有能な若者が苦難に 耐えながら「僥倖」を待ちわびて努力を惜しまず切磋琢磨しているときに、どうして傷口に塩を塗るような言い方ができるのか。生身の人間の心を理解できない ような発言をする人間は、政治の世界に身を置くべきではない。

 なお、苦労の末に大学で専任の研究職に就けたとしても、現在では、それが「任期付き」とされるケースが増えている。任期付きでは将来 の不安は払拭されず、落ちついて研究できる環境にはほど遠い。いま大学院進学を考えている若者がいたら、決して甘い見通しを持たないように、損得勘定を抜 きにしなければ進めない道だと忠告したい。(2009/12/9)

(参考資料)「大学院重点化は一体なんだったのか」<http://www.chemistry.or.jp/kaimu/ronsetsu/ronsetsu0908.pdf>;『平成18年版科学技術白書』第3部 第3章 第4節「優れた研究者・技術者の養成・確保等」<http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200601/003/003/0401.htm>;「行政刷新会議『事業仕分け』第3WG 評価コメント」『内閣府』<http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-20.pdf>
 
 


オバマ大統領、ノーベル平和賞受賞(一條麗)

 10月9日、アメリカのオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞することが決定した。ノルウェーのノーベル賞委員会は、「核なき世界」という 理念が軍縮や軍備管理交渉に影響を与えたことなどをその理由に挙げた。また、委員会は、「今こそ、私たち全員が、グローバルな課題に対してグローバルな対 応をとる責任を分かち合うべき時だ」と強調するオバマの呼びかけに支持を表明した。これは、就任からわずか8カ月のオバマの「実績」が反映されたのではな く、今後の外交への「期待」が込められたものと解釈できる。この決定を知らされたオバマは、謙虚な姿勢で応じた。授賞式は今月10日に行われる。

 ノーベル賞委員会があるノルウェーは、軍縮や中東和平問題に積極的に取り組んでおり、それが平和賞の基準に影響していると考えられ る。オバマは4月のプラハでの演説で、アメリカには、核を保持し、核兵器を使用したことのある唯一の国として行動する道義的な責任があること、核兵器のな い世界の平和と安全を追求する決意があることを述べた。

 ただし、オバマがノーベル平和賞を受賞することに対しては、賛否両論の意見が飛び交っている。アメリカはイラクやアフガニスタンで戦争を行っているのに、「平和賞」に値するのかという疑問や、この受賞はヨーロッパからのけん制行為だとする見方などである。

 前大統領の単独行動主義から政策を一新させ、国際協調や対話の重要性を訴えるオバマ大統領ではあるが、アフガニスタン戦争への対応の支持 率は50パーセントを下回る。変革の期待を背負った分責任は重い。今後、ノーベル平和賞に相応しい「実績」を作れるかが、彼にとって大きな課題の一つにな るだろう。(2009/12/2)

(参考文献)『朝日新聞』(2009年10月9日、10月10日);『読売新聞』(2009年10月9日)。プラハ演説の全文は『在日米国大使館ホームページ』を参照。
 
 

《2009年11月》


「子ども手当」と財源問題(水出真衣)

 11月19日、「子ども手当」を含む民主党の政権公約(マニフェスト)関連予算の圧縮作業が行われた。民主党は現在支給されている「児童手当」を廃止して、新しく「子ども手当」を支給する予定である。

 「子ども手当」とは、児童1人につき月額2万6000円を中学校卒業まで支給するというものである。現在支払われている「児童手当」は、 3歳未満の児童につき月額1万円、3歳以上は第1子および第2子が5000円、第3子以降は1万円となっている。また、支給は小学校卒業までで、扶養人数 の数、自営業かサラリーマンか、年収などの条件によって所得制限がある。「児童手当」は、税金である国庫負担と地方負担、事業主拠出金の一部を財源として おり、国の負担はそれほど大きくはない。それに対して、「子ども手当」の場合は全額国費負担が前提とされている。民主党は「子ども手当」の実施を2010 年6月頃としているが、半額を支給する2010年でも約2.7兆円かかり、完全実施の2011年には年間約5.3兆円の財源が必要と見込まれている。しか し現在、財源の見通しは立っておらず、所得制限なしや全額国費負担という当初案を見直す声が上がっている。

 現在の「児童手当」に比べて「子ども手当」は支給される額が多くなり、受け取れる年数も長くなるので家計が助かる一方、いつまで続く 制度なのかわからない、政権が変ったら打ち切りになるのではないかという不安の声もある。また、働きたくても子供を預ける保育所がなく働けない、中学を卒 業してもお金はかかるなど、一時的な現金支給よりも、出産した後も会社に復帰でき、安定して働けるような雇用環境をつくってほしいという意見もある。 (2009/11/25)

(参考資料)『読売新聞』9月16日、11月19日・22日);児童手当制度の概要『厚生労働省』<http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/jidou-teate.html>
 


読谷村ひき逃げ事件――米軍による事件・事故と日米地位協定(松村綾乃)

 11月7日夕方、沖縄県読谷村(よみたんそん)の雑木林で頭から出血した男性の遺体が発見された。現場の状況から、沖縄県警はひき逃げ事 件とみて捜査を開始し、同日、現場近くの修理工場に持ち込まれた米軍関係者の車両に被害者の血液と毛髪が付着していることを確認した。県警は、13日に米 陸軍2等軍曹を参考人として任意の取り調べを行った後、再び米兵を出頭させるため17日付で米軍に捜査協力を要請したが、米兵は日米地位協定で定められた 「犯罪通報」の手続きがとられていないことを理由に再度の出頭には応じていない。

 米兵は13日の取り調べに対しては、修理に出した乗用車で事故現場を通ったことを認め、「乗用車に血が付いていたのは気づいていた が、人をはねた認識はない」と供述している。その後、米兵は日本の捜査方法が公平ではないとして、取り調べの可視化や弁護士の立会いを求め、供述拒否権を 行使している。

 日米地位協定では、事件が今回のように「公務外」で起きた場合は日本側に第一次裁判権があると定められているが、日本が裁判権を行使 するためにはまず「犯罪通報」の手続きを踏んでから20日以内にその権限の行使を米側に知らせる必要がある。そこで、日本側は、事件の発生後すぐではな く、容疑者を起訴できるだけの証拠を揃えたうえで犯罪通報の手続きをとることがふつうである。今回の事件では、県警は近く犯罪通報の手続きを行う予定であ ると報じられており、米兵の弁護人も犯罪通報の手続きがとられれば出頭に応じると言明している。

 在日米軍による事件・事故が頻発している事実については、基地が集中する沖縄や神奈川での事件を中心にかねてより指摘されてきたが、 2005年に防衛施設庁により統計的なデータが公開されている。『しんぶん赤旗』(2005年7月2日)によれば、1952年から2004年までの間に在 日米軍が起こした事件・事故の件数は20万1千件を超え、それによる日本人の死者数は1,076人に上るという。そのうち「公務中」の事件・事故は 47,218件(日本人死者517人)、「公務外」は154,263件(同559人)である。

 日米地位協定の取り決めでは、「公務中」の事件・事故については、米側に第一次裁判権がある。例外として、日本側が特に重要と認めた 場合には米側に第一次裁判権の放棄を要請することができ、米側はそれに好意的考慮を払うことが約束されている。しかし、日本はかつて政府として裁判権の放 棄を米側に迫ったことはない。そして、1985年から2004年までの20年間に、実際に米軍法裁判にかけられたのはたった1人であり、極めて少ないのが 実情である。(2009/11/20)

(記事の補足)一方、読谷村ひき逃げ事件のような「公務外」の事件・犯罪については、日本側に第一次裁判権がある。しかし、法的にはそ うであるが、実際に米軍関係者が日本で起訴される件数は少ない。これについては、2008年5月に公開された米公文書によって、日米政府間に密約があるこ とが明らかにされている。日本共産党『しんぶん赤旗』(2008年10月24日付)に密約の全文訳が あるが、1953年に結ばれたその密約によれば、「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」とされているのである。日本政府はこの密約の存在を否定し ているが、共同通信(2008年5月17日)によれば、日本側はその後約5年間に起きた事件の97%の第一次裁判権を実際に放棄したという。また、『琉球 新報』(2009年5月16日)によれば、2001年から08年に在日米軍が公務外で起こした犯罪の不起訴率は平均で83%に上るというデータもある。 (西岡達裕)

(参考)『毎日新聞』2009年11月9日;『琉球新報』2009年11月14日、11月20日、;『日本テレビ』11月20日;『新聞赤旗』2005年7月2日
 
 


米軍兵士が抱える心の病(二ツ橋綾花)

 11月5日午後1時半ごろ、テキサス州のフォートフッド陸軍基地内で銃乱射事件が起きた。居合わせた兵士12人が死亡し、31人が負傷し た。銃を乱射したのは、陸軍少佐ニダル・マリク・ハサン容疑者である。彼は、帰還兵や戦場へ派遣される前の兵士の心のケアを担当していた精神科医であり、 近くイラクかアフガニスタンに派遣される予定だった。事件の動機は明らかになっていないが、彼自身イラクやアフガンでの戦争に批判的であり、不満を抱いて いたという。彼は熱心なイスラム教徒で、同時多発テロ以降は信仰を理由に同僚から嫌がらせを受け、家族に除隊の意思を漏らしたこともあった。また、精神科 医としては、帰還兵の戦場での話に耳を傾け、戦場に復帰させるためのメンタルケアやPTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかった兵士たちの治療を行って いた。このように、派遣を命じられたことに対する不満や、戦地で起きていることがどれだけ悲惨なものかを知っていることによる二次的トラウマ、嫌がらせな どが重なっていたことがメディアを通じて報じられている。

 イラク戦争の開戦から8年が経った。2007年に国防総省が戦争の長期化を受け、兵士の派遣期間を1年から15ヵ月に延長したこと や、繰り返し派遣される機会が増えることなどが兵士の負担となっている。派遣によるストレスにより帰国後の精神状態が安定せず、生活するのが困難な状態に なることも珍しくない。さらに、帰還兵や退役軍人による事件や自殺の増加が問題となっている。軍隊での自殺は、今年だけで165人に達し、過去最悪だった 昨年の133人を上回った。今年の5月11日には、イラク駐留米軍基地のメンタルケア施設で米兵による発砲事件が発生し、同僚の兵士5人が殺害されるとい う事件も起きている。

 米軍では、兵士の心の病を取り除くために、メンタルヘルス治療の施設が整備されている。しかし、予算が不十分であることや、それらを 利用することで上官や同僚から「精神的に弱い人間」とみなされ昇進に悪影響が及ぶことから治療を受けない人も多いなど、問題は山積している。戦争に勝つこ とがすべてではなく、兵士に対して十分な心のケアをすること、そして、帰国後の兵士のメンタルケアをもっと重要視し、兵士の精神的・社会的復帰を助ける環 境づくりに取り組むことが必要である。さらに、兵士を支える側の精神科医のサポートをすることについても考慮しなければならない。 (2009/11/11)

(参考文献)『毎日新聞』11月6日、7日; 『読売新聞』11月7日; 加藤貴之 『アメリカのメンタルヘルスケア対策』<http://www.stresscare.com/report/rep_usadmin.html>
 


八ッ場ダム建設中止マニフェスト(辻明子)

 民主党はマニフェスト(政権公約)に八ッ場ダム(群馬県)建設中止を掲げた。八ッ場ダムの建設は、昭和22年9月のカスリーン台風で利根 川水系が大氾濫し、死者1000人、被災者50万人の被害が生じ、その悲劇を繰り返さないために計画されたものである。しかし、当初の計画から半世紀以上 が経過し、ダムをめぐる状況は大きく変化している。

 地域住民や関係知事ら建設中止反対派は、政権発足後9月に建設中止を明言した際の民主党の強引さと、中止に伴う費用の問題を指摘して いる。ダム建設には住民の立ち退きが必要になるため、建設を拒み続けていた住民らであったが、8年前にやっと建設に合意した。しかし、何の説明もなく建設 中止を表明した政府民主党に対しては憤りを感じている。また、建設を中止した場合に関係都県に返却する費用や迷惑をかけた住民に対する費用は、計画を存続 する場合よりも高いという説もある。

 一方、民主党や「八ッ場あしたの会」などの建設中止賛成派は、ダムを建設しなくても治水・利水ともに他の方法で代替できることを指摘 している。また、同会は、工事の進捗状況と建設費用を分析した結果、このまま建設を続ければ「事業費4,600億円が大幅に増額される可能性が高い」との 試算を示し、計画中止に要する費用の方が高いとする説を否定している。

 現在、民主党は、八ッ場ダム以外にもさまざまな公共事業について無駄がないか検証している。自民党が結党以来初めて第1党の地位から 退き、民主党が政権を握った今、一度始めた手前中止できないという従来のしがらみを取り払い、客観的な必要性が認められない公共事業については、思い切っ て計画を中止すべきである。しかし、その一方で、政権交代が行われる度に地域住民が政府に振り回されてよいはずはなく、計画に着手する際には綿密な調査と 確かな見通しが求められるとともに、計画変更の場合には住民との十分な話し合いや生活再建のための措置が必要不可欠である。(2009/11/04)

(参考文献)『八ッ場あしたの会』<http://www.yamba-net.org/>; 『八ッ場ダム工事事務所』<http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/>; 「八ッ場ダムなぜ、中止?」『NHK週刊こどもニュース』(2009年10月24日)など。
 


《2009年10月》

世界の農地 囲い込みへ(高村綾香)

 食料確保のためアフリカやアジアの途上国の広大な農地を、資金力のある国や企業が売買や賃貸で囲い込み、農業へ投資する動きが広がってい る。背景には、国際的な食料価格の高騰と将来の食糧危機の不安がある。国連食糧農業機関(FAO)によると、飢餓人口は2009年に過去最悪の10億 2000万人に達するという。また、世界の人口は2009年現在の67億人から2050年には90億人を越える見通しで、増え続ける人口に対しての安定的 な食料の確保が必要になってくる。

 農地の囲い込みは、途上国の政府などと農地の購入や数十年の長期貸借契約を結び、収穫物を優先的に輸入するもので、一般的には地元の 農民が耕作する。取引される農地の規模は巨大であり、主な投資国は中東の産油国や中国などの32カ国である。資金力のある国や企業による途上国への農業投 資は、農業インフラ整備や雇用創出、生産性向上など、途上国経済の発展に繋がることが期待される。その一方で、FAOは、それが農地の取得によって途上国 を間接的に支配する「新植民地主義」につながる危険性を警告する。大規模な農地の囲い込みで途上国の貧農が土地を追われ、収穫物が投資国に優先的に輸出さ れ、途上国に食料不足などの深刻な被害をもたすおそれがあるというのである。

 日本の食料自給率は41%(2008年)と低く、食料の多くを海外からの輸入に頼っている。日本政府は、安定した食料の供給を確保す るために、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を取りまとめ、民間企業の海外への農業投資を促進している。その一方で、日本国内には、海外 の農地を直接取得するのではなく、政府開発援助(ODA)で途上国の農業生産力を高めるなどの努力を通じて、安定的な食料確保をすべきだという声もある。 海外で農地の争奪が過熱する中、日本は農地争奪戦に参戦し、農地の取得で間接的に支配する「新植民地主義」を強めていくのだろうか。 (2009/10/28)

(参考文献)『産経新聞』10月22日; 『サーチナ』8月22日; 「わかる!国際情勢Vol. 44 農地争奪と食料安全保障」『外務省』<http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol44/>
 


《2009年9月》

高速道路無料化、6割反対(森恵里)

 民主、社民、国民新の3党連立による鳩山内閣が16日に発足した。政権交代により国民の期待も高いが、鳩山内閣が掲げる政策のうち、高速道路無料化は読売新聞の世論調査で反対が61パーセントにのぼり、賛否が分かれている。

 民主党は首都高速と阪神高速を除く高速道路について、徐々に割引を拡大し2012年までに無料化する考えを示している。無料化により輸送 費を抑えることで、商品の価格引き下げや地域経済を活性化させる狙いがある。国土交通省が2007年度に、走行時間短縮、燃料費などの削減、交通事故減少 の三つを金額に換算した試算では、年に2.7兆円の経済効果を見込んでいる。さらに、家計の負担減などによる波及的な効果も合わせると、年7.8兆円に上 るとしている。

 しかし、最大の課題は、財源問題である。これまでは利用者が支払ってきた高速道路の借金を、税金として国民全体が負担することにな る。新たな返済の仕組みや、それまで料金収入でまかなっていた維持費・修繕費などにも新たに財源が必要となる。また、車を持たない人や高速道路を使わない 人も負担をしなければならないなど、公平性の観点も問題となる。他方、温室効果ガスの排気量が増える可能性も指摘されている。温暖化対策では2020年ま でに、1990年比で温室効果ガスを25パーセント削減する目標を掲げており、その政策との整合性を示すべきである。

 高速道路無料化は選挙公約であるが、世論の反対が6割にのぼる以上、政府民主党は国民的な議論に耳を傾けながら、この公約については改めて慎重に吟味する必要がありそうである。(2009/09/25)

(参考資料)『読売新聞』2009年9月6日、13日、19日 

 

《2009年8月》

レス・ポールの想い出

 父親と 一緒にニューヨークを旅行し、ジャズクラブ「ファット・チューズデー」でレス・ポール・トリオの演奏を観たのは、1992年8月10日の夜だった。小さな クラブで、ステージまでの距離はほんの数メートル。そこに「エレキギターの父」とも呼ばれるあの伝説のレス・ポールが生で演奏している。当時レス・ポール は77歳だったが、そのステージは本当に見事なものであった。演奏の終了後、ポスターにサインをしてもらったが、「To Nishioka, Hi」と書かれたそのサインは現在でも書斎の壁に飾っている。

 昨日、久しぶりに両親が我が家を訪れ、父親のリクエストでレス・ポールの CDを聴いていると、母親が「そういえば、レス・ポールも亡くなってしまったわねえ」とつぶやいた。「えっ!?」と聞き返す私に、「何、知らなかった の?」という母親。レス・ポールが亡くなったのは、2009年8月13日、今から半年も前のことであった。享年94歳。私はこのニュースをなぜか見逃して おり、今更ながらこの記事を書いている次第である。

 レス・ポールは1951年に「How High the Moon」で全米ヒットチャートNo.1に輝いた。ただ、彼の名前は、それよりも彼の名前を使ったギターのモデル名として世界的に有名になっている。レ ス・ポールというギターはもともと1952年にギブソン社が彼と共同開発したモデルであり、その後そのモデルを各社が模倣した結果、現在では最もポピュ ラーなエレキギターのモデルとなっているのである。また、ロックやポップスなどの音楽でよく使われている穴の空いていない一枚板のエレキギター(ソリッド ギター)は、彼が1941年に開発したThe Logというギターが原型とされている。さらに、レス・ポールは、多重録音の発明者でもあり、初めて8トラックレコーダーを製作したことでも知られる。エ レキギター(ソリッドギター)と多重録音、この二つの発明がなければ、今日のロックやポップスも存在しなかったといっても過言ではない。

 コンサー トの後、サインをねだりにレス・ポールのもとへ行き、「あなたの演奏を聴きに日本からやってきました」というと、「あ、そう」という感じでやや素っ気な かったが、彼にしてみれば珍しいことではなかったのであろう。日本経済新聞(1995年2月10日)には、次のようなインタビュー記事がある。「ファッ ト・チューズデーにいると、いろんな人たちに会える。この間は、死ぬ前にレス・ポールを聴きたいからって救急車で運ばれてきた重病人がいた。驚いたね。 ベッドを壁に立てかけて、体がずり落ちないように縛り付けられたまま、聴いていたよ。涙を流しながら」。もちろん、彼の生演奏を聴けたことは、私にとって も生涯の想い出である。(2010/3/16)
 
 


《2009年7月》

雇用悪化、労基署パンク寸前(森崎匡一)

 昨年のサブプライム住宅ローン問題を機に、急速に景気が後退し、日本でも雇用情勢の悪化が続いている。今年5月の有効求人倍率は過去最悪 の0.44倍を記録、完全失業率も5.2%となり、5年8ヵ月ぶりの高水準になった。このような経済情勢の悪化を受けて、賃金未払いや違法解雇などの労働 トラブルが相次いでいる。

 経営不振を理由に、突然、一方的な解雇通告を受けるような例が後を絶たない。労働基準監督署(以下労基署)を訪れて相談が寄せられた 件数は、前年度の約8%増しとなる約108万件に上った。労基署の日常業務は、労働相談と定期監督(企業を定期的に訪れ、職場環境を点検すること)にあ る。相談内容から労働基準法(以下労基法)違反の疑いがあれば、労基署の職員が抜き打ちで訪問し、法令違反があれば改善を指導する。従わない場合は、労基 法違反で6ヵ月以下の懲役などの罰則がかけられる場合もある。

 しかし現在、労働相談件数の増加により、労基署の日常業務に支障が生じている。労働相談の対応で手一杯の状態で、定期監督まで手が回らなくなってきている。この状態が続けば、労基署は労働者と労働環境を守るという本来の目的を果たせなくなるおそれがある。

 現在、日本の労働者は労基法によって守られている。使用者が労働者を解雇するには、客観的かつ合理的な理由がなければならない。また、労 働者は、賃金払いの5原則に基づいて正当な賃金を受け取る権利がある。労働者は、何でもすぐに労基署に頼るのではなく、まずそのような基礎知識を身につ け、労働相談だけなら法テラスに、訴訟による決着なら地方裁判所にと、労基署への相談以外の組織や制度にも目を向けることが望まれる。そうすることで、労 基署のパンク状態もいくらか改善され、本来の業務に従事することができるだろう。(2009/07/22)

(参考文献)『日本経済新聞』(2009年7月16日、19日); 『労働相談解決!Info』 <http://www.roudou-trouble.info/>

 


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