国際政治・アメリカ研究

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目 次

《2007年7月》
ハンス・ウェグナー追悼展を訪れて(体験記)

《2007年6月》
不法移民をめぐる移民制度改革は先延ばし

《2007年5月》
イラク撤退期限設けずに戦費法案可決

《2007年4月》
米最高裁、部分出産中絶禁止法に合憲の判決
ヴァージニア工科大学銃乱射事件と銃をめぐる世論

《2007年3月》
ブッシュ政権のイラク増派計画と民主党のイラク撤退法案

《2007年2月》
歴史家アーサー・M・シュレシンジャー、Jr.の死去
ハンス・ウェグナーが死去――美しい椅子のある暮らしの勧め

《2007年1月》
イラクへの米軍増派計画と一般教書演説



《2007年7月》

ハンス・ウェグナー追悼展を訪れて(体験記)

 今年2月、本ホームページでデンマークの家具職人ハンス・ウェグナーの逝去を伝えたが、現在、彼の追悼展が新宿パークタワーのリビングデザインセンターOZONEで開催中である。3階の「追悼展」は10日までだが、5階ノルディックフォルムでの「ハンス・J・ウェグナーデザイン&PPモブラー特集」は17日まで開催。入場無料。3階に展示されている椅子には自由に座ることができ、5階の展示品についても担当者に断れば実際に座ることができる。 

 今日、試しに座った名作椅子は、ウェグナーのザ・チェア、Yチェア、ベアチェア、バレットチェア、ピーコックチェア、サークルチェアなど、合計20種類以上。また、同じ会場にあったボーエ・モーエンセンのスパニッシュ・チェア、アルネ・ヤコブセンのエッグチェア、フィン・ユールのディプロマットチェアにも触れることができる。1960年、ケネディ対ニクソンのTV討論会でも使用された「ザ・チェア」は座面が籐のものと革のものを座り比べたが、個人的には籐の座面の「ザ・チェア」が秀逸であった。見た目のシンプルさからは想像できないくらい自然で優しいフィット感が身体全体に感じられ、座面・背もたれ・肘掛けのすべてがまったく違和感を感じさせない作りとなっている。まさに職人技である。(2007/7/7) 
 

《2007年6月》

不法移民をめぐる移民制度改革は先延ばし

 28日、米上院は、包括的移民改革法の採決を行なわないことを投票により決定し、ブッシュ政権が重視してきた移民法改革は事実上頓挫、次期政権に任されることとなった。アメリカには現在、1200万人の不法移民がいるといわれるが、同法案は、米墨国境の警備を強化する一方で、不法移民の就労の合法化や永住権の取得に道を開く内容。同法案には、当初より共和党内に反発が大きく、大統領は支持を求めて電話で最後の説得に当たったが、中間選挙での敗北や支持率の低迷が影響してか大統領直々の説得も功を奏することはなかった。(2007/7/7)

(参考資料:毎日新聞6月29日、産経新聞6月30日)
 

《2007年5月》

イラク撤退期限設けずに戦費法案可決

 民主党主導の議会は、イラクへの増派計画を進める政府に対して撤退期限の設定を求めてきたが、上下両院は24日ついに撤退期限を盛り込んでいない戦費法案を可決した。民主党の戦術は、当初の増派阻止から撤退期限の設定に後退し、さらにそこから後退した形となった。民主党はイラク情勢の泥沼化も手伝って昨年の中間選挙で勝利したが、今回の戦費法案可決では、むしろブッシュ大統領の一貫性と民主党指導部の一貫性のなさが目立った。(2007/6/3)

(参考資料:産経新聞5月25日・28日)
 

《2007年4月》

米最高裁、部分出産中絶禁止法に合憲の判決

 2003年10月に議会を通過した部分出産中絶禁止法については、地方裁で施行を一時差し止める命令が下されたことを以前このホームページでも伝えていたが、米最高裁は18日、同法を合憲とする判決を下した。5対4の僅差の判定であった。部分的であれ中絶を禁止する法律が合憲とされたのは、これが初めてである。ブッシュ大統領が二期目に入ってから任命した二人の保守派の判事、ロバーツとアリートはともに合憲の判断を下した。(2007/6/3)

(参考資料:産経新聞4月20日)
 

ヴァージニア工科大学銃乱射事件と銃をめぐる世論

 16日、ヴァージニア工科大学で学生による銃乱射事件が発生し、容疑者を含む学生と教員あわせて32名が死亡した。学校で起きた史上最悪の惨事であった。しかしながら、この事件をきっかけにアメリカで銃規制が劇的に進むことはないというのが大方の見方である。より厳格な銃規制が必要だと考えるアメリカ人は少なくないのだが、「全米ライフル協会(NRA)」をはじめ銃所持の権利を主張する人びとの方がこの問題に遥かに熱心で、政治力があるからである。そのうえNRAは、日本では銃問題の元凶のように報道されがちであるけれども、アメリカ国民の好感度はそれほど悪くなく、当面は勢力バランスが崩れそうにない。

 ギャラップ社の調べ(2007年1月)によれば、アメリカ国民の50%は国家の銃規制に満足していると答えており、不満としているのは43%である。規制を強めるべきかの問い(2006年1月)に対しては、強めるべきが51%、今のままでよいが32%、緩めるべきが14%である。ピュー・リサーチ・センターの調べ(2007年4月)によれば、銃を所有する権利と銃所持の統制のどちらを重視すべきかの問いに対して、権利が32%、統制が60%である。全米ライフル協会(NRA)の好感度調査(2007年1月)では、国民の52%が「好ましい」、32%が「好ましくない」と答えている。(2007/6/3)

(参考資料:The Gallup Poll Home Page, Pew Research Center Home Page)
 

《2007年3月》

ブッシュ政権のイラク増派計画と民主党のイラク撤退法案

 ブッシュ政権は今年1月にイラクの治安回復のため米軍を21,500人増派する計画を発表していたが、3月に入り最大で4,400人の兵力をさらに追加する方針を明らかにした。ブッシュ大統領は、戦費の増額を要求しないことを述べて、政府のイラク政策に対する理解を議会に求めている。

 一方、議会では、上下両院で多数を占める民主党がイラクへの増派阻止から撤退期限の設定へと戦術を変えて、政府のイラク政策を批判しているが、その戦術はあまりうまく行っていない。たしかに、23日には下院がイラク駐留米軍の撤退期限を来年8月末とする法案を可決し、29日には上院も3月末をめどに撤退を求める法案を可決した。しかし、撤退期限の設定については今後上院案と下院案をまとめたところで、、ブッシュ大統領が拒否権を行使することが確実で成立の見込みはない。そのうえ、民主党の法案は、撤退期限の設定への支持を広げようとした結果、戦費を含む補正予算を認める内容となっており、マスコミや党内からもその曖昧さが批判されている。(2007/6/3)

(参考資料:産経新聞3月13日・25日・30日)
 

《2007年2月》

歴史家アーサー・M・シュレージンガー、Jr.の死去

 28日、アーサー・M・シュレージンガー、Jr.がニューヨークの病院で死去した。享年89歳。氏は、父のアーサー・シュレージンガー、シニアとともに親子二代でハーヴァード大学の歴史学教授を務めた著名な歴史家であり、戦後アメリカを代表するリベラル派の知識人であった。ケネディ大統領の特別補佐官を務めたことでも有名である。

 シュレージンガーは、1945年の著書『ジャクソンの時代(The Age of Jackson)』でピューリッツァー賞を受賞し、46年からハーヴァード大学教授に就任、47年にはリベラル派政治団体「民主的行動をめざすアメリカ人(Americans for Democratic Actions)」の設立に参加、冷戦たけなわの49年の著書『ヴァイタル・センター(The Vital Center)』では反共主義の立場から、金権主義的な保守勢力と共産主義の間の中道勢力としてリベラル派の勢力が不可欠であることを説いた。

 1957年から60年にかけて『ローズヴェルトの時代』全3巻を刊行した後、61年にケネディ大統領の特別補佐官に就任。65年には著書『ケネディ 栄光と苦悩の一千日』で二度目のピュリツァー賞を受賞した。アメリカの保守化が顕著となった1980年代の著作『アメリカ史のサイクル』では、1930年代と60年代がリベラルな時代となったようにアメリカ史には30年の周期があるという仮説を唱え、来る90年代にはレーガンの保守主義が過去のものとなることに期待を寄せた。冷戦後、共産主義の脅威がなくなると、それまでリベラルな立場からマイノリティーの側に立つことが多かったはずのシュレージンガーは、多文化主義の行きすぎによるアメリカ社会の分裂の危険性を警告する著書『アメリカの分裂』を刊行して話題を集めた。米中枢同時多発テロ後、ブッシュ外交の単独主義を批判して発表した2004年の『アメリカ大統領と戦争』が最後の著作となった。まさにアメリカの時代と共に生きた歴史家であった。(2007/3/3)

(参考資料)『読売新聞』3月1日ほか。なお、シュレージンガーはドイツ語の読み方に近いが、英語の発音でシュレシンジャーと書かれる場合もある。原書名を併記していない著作はについては、翻訳書の邦題を記した。
 


ハンス・ウェグナーが死去――美しい椅子のある暮らしの勧め

 8日、20世紀を代表する家具職人で椅子のデザイナーとして有名なハンス・ウェグナー氏がコペンハーゲンで死去した。享年92歳。1949年にヨハネス・ハンセン社から販売されたJH-501は「ザ・チェア」の名で知られる屈指の名作椅子であるが、アメリカ政治に関心がある人なら、60年大統領選挙のテレビ討論会でJ・F・ケネディが足を組んで座っていたあの椅子だといえばわかるだろう。

 生前、ウェグナーは、自分のことをデザイナーであるよりも職人であると考え、また、みずからの作品を芸術品ではなく日用工芸品であると述べていた。実際、「ザ・チェア」にしてもアームと背の接合部分には自然な曲線を生み出す高度な職人技が使われているが、パッと見たところ装飾らしい装飾はほとんどなく、インテリアに興味のない人が見れば、ただのシンプルな椅子にしか見えないかもしれない。しかし、逆説的だが、鑑賞用ではなく日用の工芸品をつくろうとするウェグナーの職人魂こそ、彼の椅子を歴史的価値のある芸術品に高めたといえる。なぜならば、20世紀は、産業の発展によって、音楽を筆頭にさまざまの芸術が大衆に近づいたかに見えて、実は職人の衰退によって日用の美が最も危険に晒された時代だからである。そのような時代に、美しい椅子のある暮らしを追求し続けたウェグナーの功績は大きい。

 日本でも日用品の中に「用の美」を見いだそうとする民藝運動が1920年代に始められたが、それは産業革命による日用品や暮らしそのものの陳腐化を憂いた19世紀のイギリス人、ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動を源流とするものである。日照時間の短い北欧の人びとは暮らしの中に美しさを求める傾向がひときわ強く、インテリア業界では「ミッドセンチュリー」と呼ばれる20世紀中葉に、北欧家具の一大ブームが起きた。それには、ウェグナーのほか、アルネ・ヤコブセン、ボーエ・モーエンセン、フィン・ユールといった優秀なデザイナーが続出したことと、そうした北欧家具の価値に経済力のあるアメリカ人が気がついたことが大きかった。

 ウェグナーの代表作としては、ザ・チェアーのほか、チャイニーズ・チェア、Yチェア、ピーコック・チェア、ヴァレット・チェアなどがあるが、主要な椅子については「デザイン! What's design?」、で画像を見ることができる。もう少し多く見てみたい人は、scandinaviandesign.comを参照されたい。

 追記:東京でウェグナー展かフィン・ユール展があるときは、ぜひ知らせてください。(2007/2/10)

(参考文献:島崎信『美しい椅子』えい文庫; 織田憲嗣『ハンス・ウェグナーの椅子100』平凡社、ほか)
 

《2007年1月》 

イラクへの米軍増派計画と一般教書演説

 ブッシュ大統領は10日、懸案のイラク新政策について演説し、治安回復のため米軍を21,500人増派する計画を発表した。バグダッドでは激しい宗教対立が続いており、現在の状況ではイラク政府に治安権限を全面的に委譲しても治安が回復される見込みがなく、そのため一時的に米軍を増派するという趣旨である。しかし、昨年11月の中間選挙では、米兵に多くの犠牲をもたらす政府のイラク政策への反発から、野党民主党に批判票が集まったばかりである。今月に入り、米軍の死者数は累計で3,000人を超えた。AP通信などが実施した世論調査では、アメリカ国民の約7割が増派計画に反対している。(毎日新聞1月11日、読売新聞1月12日)

 今月、ブッシュ大統領は、元イラク大使のネグロポンテ国家情報長官を国務副長官に指名、また、新しい国連大使にハリルザド駐イラク大使を指名し、新イラク政策を遂行する布陣を整えた。そして、23日の一般教書演説では、米軍増派に対する支持を議会に要請したのであるが、議会の反応は冷たく、翌日、上院外交委員会は米軍増派計画に反対する決議案を可決した。(産経新聞1月5日・10日、ロイター1月24日)

 なお、今回の一般教書演説では、米軍のイラク増派計画のほか、それを埋め合わせるための米軍の増強計画(5年間で9万2000人)、北朝鮮とイランによる核開発を阻止するための対応策、ガソリン消費を抑制し代替燃料の利用を促進するエネルギー政策、民間保険への加入を促進する医療保険制度改革、などが強調された。(毎日新聞1月24日、一般教書=原文)(2007/2/4)
 


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