国際政治・アメリカ研究

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目 次
《2005年6月》
アメリカの考える国連安保理改革(伊藤りえ)
(出版情報)『アメリカ』(ナツメ社)刊行のお知らせ
旧日本兵生存の真偽(柴沢繭子)
BSE――牛肉輸入の実態(水嶋誠)

《2005年5月》
新しいヤルタ論争――帝国の大国主義批判
靖国問題――小泉首相の態度(匿名記事)
JR福知山線の脱線事故の背景にあるもの(竹内祐貴)
(出版情報)『学術論文の技法[新訂版]』刊行のお知らせ

《2005年4月》
ブッシュ大統領の支持率、過去最低に

《2005年3月》
ジョージ・ケナンの死去(訃報)

《2005年2月》
(更新のお知らせ)ホームページのリンク切れを修正
アメリカ政治研究会「阿部斉先生の業績を振り返る」に参加して

《2005年1月》
ブッシュ大統領、2期目の就任演説


《2005年6月》

アメリカの考える国連安保理改革(伊藤りえ)

 アメリカ政府は今月16日、安全保障理事会の拡大を含む国連改革について包括提案を発表した。バーンズ国務次官は記者会見で、常任理事国を2カ国程度増やす方針であり、「常任理事国候補のうち1カ国は日本」であるとし、新たに常任理事国入りする国には拒否権を認めないことを明らかにした。日本以外の対象国については今の段階では決めていないが、常任理事国への加入条件として「人口や経済力を含む国力、PKO(国連平和維持活動)に貢献できる軍事力、人権や民主主義の順守、国連への財政的貢献、反テロ、大量破壊兵器不拡散への協力」という新たな基準を挙げた。アメリカ政府が安保理の拡大に関して具体的な案を提示したのは初めてのことである。

 日本はドイツ、インド、ブラジルの4カ国と協同で今年5月に「枠組み決議案」を提示した。その内容は安保理を現在の15カ国から25カ国、常任理事国を5カ国から11カ国に拡大し、拒否権も与えるというものである。しかし、この案についてアメリカは拡大数が多すぎることを理由に「効率性の点で懸念せざるを得ない」と述べ、支持しない方針を示した。拒否権についても効率性を維持するため、現状の5カ国のみが保持していくべきであるとした。これに対して日本の外務省幹部は「日本への支持はありがたいが、ドイツなどと安保理拡大決議案への理解を米国に求めていく立場に変わりはない」と発言した。

 今回、アメリカが提示した国連改革案は、アメリカに同調的でない国を候補から排除しようとする、ブッシュ政権の本音を鮮明に表すものになった。アメリカ国務省は毎年、国連の加盟国が総会でどれだけアメリカに同調的であったかを一覧表にまとめている。それによると、2004年のドイツの同調率は日本とほぼ同じであったが、非常任理事国であった2003年には最後までイラク戦争に反対した。インドとブラジルの同調率は加盟国全体の平均23.3%を下回っている。ブッシュ政権はイラク戦争以来、国連に対して不満を強めており、安保理の拡大でアメリカに懐疑的な国が増えれば、アメリカ外交の足かせになりかねないと懸念している。(2005/6/22)

(参考文献:『朝日新聞』2005年6月7日、17日;『日本経済新聞』6月17日)
 


(出版情報)『アメリカ』(ナツメ社)刊行のお知らせ

 ナツメ社が一般向けの教養書として出版している図解雑学シリーズから拙書『アメリカ』が刊行された。一応、アメリカ研究の入門書であるが、あくまで一般の読者向けに、アメリカの歴史・政治・経済・外交・民族・社会・文化を基礎からわかりやすく説明した本である。2、3時間もあれば読み終わるので、アメリカ研究のゼミに入ってみたが基礎知識が足りないとか、マスコミ関係者であるがアメリカについてまともに勉強する時間がなくて困る、というような人にも役に立つかもしれない。また、見開きの半分は図版なので、授業のプリントに載せる資料を探している先生方にも利用価値があるかもしれない。

 実は、この本は、このホームページを見た編集者からの依頼による。私が選挙や軍事政策から音楽やスポーツまで何でも話題に取り上げるので、図解雑学というシリーズの筆者としてよいと思ったのであろう。しかし、同シリーズは、本の半分がイラストによる図解である。アメリカ研究について丸ごと一冊を一人で書けるのは楽しそうだが、若手の研究者が商業的な本に手を出すことにはリスクがあるので、初めは私も「イラストが多いような本だとお引き受けできません」と断った。すると、編集者はすかさず「シリーズの名称やイラストの使用は読者の入口を広げるためで、文章による説明は学問的にしっかりやっていただいています」と述べて、東大大学院教授が書いた同シリーズの本をサンプルとして送ってきた。結局、私は、人物等のイラストをいっさい使わず、写真と統計を多用するという条件でお引き受けすることにした。

 おそらく、そういう本は類書にはないと思うし、私も十年前ならそんなことを一人でやるのは不可能だと思ったにちがいない。しかし、現在ならインターネットを駆使してビジュアルな資料を一人でも収集できるのではないか、と考えた。たとえば、アメリカ連邦政府の第九控訴裁のホームページを見て、陪審団の席などの映った法廷写真を探し出す。裁判所のスタッフに電子メールを送って、写真の使用許可を求める。そうすると、連邦裁判所のスタッフが、親切にも、ホームページの画像をそのまま使うのでは画質が悪いでしょうからと言って、解像度の高い写真のデジタルファイルをCD-ROMに焼き付けて航空便で送ってくれる。編集者の助けも借りながら、そんな調子でつくった本である。価格を抑えるためもあり、有料画像はごくわずかしか使用していないが、そのぶん、時間をかけてよい画像を探したつもりである。本をつくる側としては、ただ文章を書くだけよりも余計に苦労したが、実験的な試みとして楽しい部分もあった。

 アメリカのマクドナルドやテロ直後の世界貿易センタービルなど、日本人のホームページからも何枚かの写真をお借りした。この場を借りて、ご協力いただいた皆様に厚くお礼を申し上げたい。本の詳細はこちら。(2006/6/11)
 


旧日本兵生存の真偽(柴沢繭子)

 先月26日、フィリピン南部のミンダナオ島に住み、貿易商を営む日本人から、ミンダナオ島南部のジェネラルサントス付近で2人の旧日本兵が生存しているとの情報がマニラの日本大使館に寄せられた。この情報をもとに、先月27日に2人の旧日本兵とマニラの日本大使館職員が面会を行い、詳しい事情を聞く予定が組まれた。しかし、情報提供者は面会地に現れず、面会は実現しなかった。

 約48万人が戦没したフィリピンでは昔から、「旧日本兵がひっそり隠れている」「集団生活をしている」といった情報があり、今回の情報もその中の一つである。しかし、今回の情報提供者は、28日午後には複数のメディアの取材に応じたものの、内容に食い違う部分もあった。翌29日には、一時、大使館職員が男性の携帯へ電話してもつながらない状態になった。男性は「29日に入院する」としたが、厚生労働省の職員が29日に現地入りすることも知っていた。このようなことから、今回の旧日本兵生存の情報自体がでっち上げの可能性もあるとの声もある。(2005/6/5)

(参考資料:『朝日新聞』5月27日、28日、29日; 『読売新聞』5月27日)
 


BSE――牛肉輸入の実態(水嶋誠)

 日本政府は先月24日、米国産牛肉の安全性と輸入再開の是非を内閣府の食品安全委員会に諮問した。これによって、一昨年12月から停止している米国産牛肉の輸入再開に向けた動きが本格的に行われることになった。諮問の主な内容は、「日本産と米国産の牛肉の安全性は同等かどうか」ということであった。

 この諮問に先立ち、食品安全委員会は先月6日、日本国内のBSE対策として実施している全頭検査の見直しを行い、検査対象から生後20ヵ月以下の牛を除外することを容認していた。米国は、病原体が蓄積する脳や脊髄などの特定危険部位が除去され、生後20ヵ月以下と証明できる牛の肉だけを日本に輸出するとしており、日米の足並みが揃えられている。しかし、米国の専門家たちは、全頭検査はおろか、歩行困難な牛や感染の可能性のある牛約35万頭だけ集中的に検査を行ったにすぎない。そして、それらの検査を根拠に「米国内にBSEは存在しない」と主張している。

 これに対して日本の消費者からは非難の声が多く、北海道農協中央会は「信頼感がない米国牛肉が入ってくれば牛肉全体の人気がなくなる」と米国の検査方針に警戒心を強めている。また、日本消費者連盟の富山洋子代表運営委員は「十分な審議もなく輸入再開となったら米国牛肉の不買を全国に呼びかける」と全頭検査を要求するとともに、あくまでも慎重な対応を政府に求めている。日本の消費者や畜産農家の輸入再開に対する批判と、全頭検査を求める声はまだまだ根強いといえよう。食品安全委員会は、輸入再開の前に、米国内の実態を十分に把握し、日本の消費者が納得できるような説明を行う必要がある。(2005/06/01)

(参考資料:『読売新聞』 2005年5月25日、『毎日新聞』 2005年5月25日)
 

《2005年5月》

新しいヤルタ論争――帝国の大国主義批判

 いまさらのように語られるブッシュ大統領のヤルタ批判は何を意味しているのであろうか。英米とソ連という第二次世界大戦当時の諸大国が協調したヤルタ会談への批判は、冷戦期から反共主義者の間ではよく聞かれたものであるが、冷戦後の今日に改めてヤルタ批判を行う意味はどこにあるのか。そこには、小国の大国主義批判への同調に見せかけて、多国間共同主義からの自由を表明する帝国の論理が見え隠れしている。

 対独戦勝60周年記念式典に出席するため訪欧中のブッシュ大統領は、5月7日、リガ市内で講演し、ヤルタ会談をめぐる歴史論争を仕掛けた。ブッシュは、ヤルタ会談当時の大国主義を批判して「小国の自由は犠牲となった」と語り、次のように述べたのである。「安定のため自由を犠牲にしたこの試みは、欧州大陸を分断し、不安定にした。何百万人もの中東欧諸国の人々が捕らわれの身となったことは、史上最大の過ちの一つとして記憶されるだろう」。

 一方、ロシアのプーチン大統領は、7日付の仏紙『フィガロ』で、ヤルタ会談について「米英ソの三首脳がナチズム復活を阻止し、世界を破局から防ぐ国際体制を目指して合意した。その目的に沿って国連も結成された」と評価し、ブッシュに反論した。さらに、10日、ロシアのプーチン大統領は、バルト3国が第二次世界大戦を「ナチに代わるソ連支配の始まりだった」と批判したのに対して、「当時、弱小国・弱小民族は、(大国の)密約で使われた小銭だった」と語って正当化した。

 もとより、プーチンの弁明によってバルト3国を「小銭」として扱った独ソ不可侵条約の秘密議定書が正当化されるとは思わないし、大国主義を過去のものとして語るプーチンが現時点で大国主義でないのかという疑問は残る。しかし、いっそう注意を要するのは、ブッシュの大国主義批判の背後に潜む単独行動主義の思想である。彼は、ローズヴェルト大統領がヤルタ会談で大国間の協調を優先させて小国の自由を犠牲にしたことを批判した。これは一見すると、小国の側についた大国主義批判のようにも聞こえるが、実際には、いまや世界のどこであれアメリカが自由を守るという名目で立ち上がる場合には、たとえ同盟諸国の支持がなくても単独で介入するという「帝国の論理」の表れではないのか。ブッシュのヤルタ批判は、当時のパワーバランスではなく、現在のパワーバランスに根ざした意見表明であると思われてならない。(2005/06/01)

(参考文献:ロイター5月8日、産経新聞5月9日、毎日新聞5月12日)
 


靖国問題――小泉首相の態度(匿名記事)

 5月16日、衆議院予算委員会でのアジア外交に関する首相答弁で、小泉首相は靖国神社への参拝について語った。「どの国でも戦没者への追悼を行う気持ちを持っている。どのような追悼の仕方がいいかは他の国が干渉すべきではない」「戦没者全般に敬意と感謝の誠をささげるのがけしからんというのは、いまだに理由が分からない」などの小泉首相の発言は、最近悪化している中国との関係にさらなる悪影響を及ぼしかねない。

 小泉首相が靖国神社への参拝について強固な姿勢を崩さない背景には、高い内閣支持率がある。先月に行われた朝日新聞社の世論調査では、支持率43パーセントと不支持率を7ポイント上回っている。しかし、同じ調査で、参拝賛成は36パーセント、反対は48パーセントと国民の約5割が参拝すべきではないとしている。政府内をみてみると、反対一辺倒ではなく、条件付きの参拝肯定派も多く存在する。靖国神社への参拝に対する答弁の事前の打ち合わせでは、中国を刺激しないように、「適切に対処する」と繰り返す予定であった。周囲から訂正した方がいいとの進言を受け、予算委員会後の記者団の質問に対し、「適切に対処する」と繰り返した。

  「A級戦犯がまつられている靖国神社への参拝は絶対にしないようにしてほしい」と繰り返してきた中国に対し、靖国神社に代わる追悼施設の建設を検討した時期があったが、自民党内や靖国神社、遺族らの反対で頓挫する結果となった。今一度、A級戦犯をまつらない新たな追悼施設の建設を再検討し、アジアの国々に対して、行動で示すことが望ましいであろう。「適切に対処する」と繰り返すだけでは、適切な対処とはいえないのである。(2005/5/25)

(参考資料:『朝日新聞』2005年5月17日・18日)


JR福知山線の脱線事故の背景にあるもの(竹内祐貴)

 4月25日、兵庫県尼崎市内のJR福知山線で起きた快速電車の脱線事故は、JR史上最悪の惨事となり、死者107名、負傷者540名の犠牲者を数えた。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、現場のカーブ直前で事故車両が制限速度を超過したことが主因であるとほぼ断定した。速度超過の原因は、高見運転士が当初から報告された伊丹駅以外に、中山寺駅と川西池田駅でもオーバーランをし、そのために生じた遅れをとり戻そうとしたことによるものと見られる。その背景には、安全性よりも利益追求のために所要時間短縮を目玉に乗客を獲得しようとしたJR西日本の経営方針がある。

 JR福知山線は阪急宝塚線とほぼ同じ区間を走っており、料金の安い阪急宝塚線に対抗して、定時運行や速さを売りものにして乗客を獲得してきた。そのため、事故車両は、トラブルによる遅れを駅間で回復する余裕のない「余裕時分ゼロ」での運行を余儀なくされていた。事故車両を除く電車では伊丹駅での停車時間が20秒と設定されているにもかかわらず、事故車両においては15秒しかなかった。このような過密ダイヤにもかかわらず、同社がダイヤ厳守という方針を掲げていたために、運転士には精神的に大きな重圧が加えられていた。高見運転士は、ミスを犯した運転士や車掌に対して行われる再教育(「日勤教育」と呼ばれる)を過去に三度受けており、昨年6月にオーバーランで訓告処分を受けた後には、親しい知人に「次やったら、乗務を外される」と漏らしていた。

 今回の事故では、事故車両の事故直前の速度は制限速度を50キロ以上も上回る120キロ台前半であったことが、事故車両より回収されたモニター制御装置の記録で確かめられた。高見運転士は、オーバーランで約1分半の遅れが生じていたため、速度超過の運転によって、遅れを取り戻そうとしていた可能性が疑われる。同社は、この事故をきっかけに、安全性を重視する必要があるとし、若手の教育方法と、「日勤教育」と呼ばれる再教育システムの見直しや、過密なダイヤを解消するための列車本数の減便を検討することを決めた。(2005/5/25)

(参考文献:『読売新聞』2005年4月26日・5月12日; 『朝日新聞』5月7日; 『時事通信』5月11日; 『神戸新聞』5月11日)
 


(出版情報)『学術論文の技法[新訂版]』刊行のお知らせ

 昨日、斉藤孝・西岡達裕の共著『学術論文の技法[新訂版]』が日本エディタースクール出版部から刊行された。『学術論文の技法』は、私の学生時代の指導教授である斉藤孝先生が1977年に初版を刊行して以来、研究者志望の多くの学生・大学院生に親しまれてきた本格的な論文執筆マニュアルであるが、その内容には1990年代以降の情報革命にともない現実の研究環境を反映しない部分も出てきていた。そこで、同書の本来の魅力を損なうことなく、パソコンの活用を前提とした内容に改訂するために、今回から私が共著者として加わることとなった。共著者としては、研究環境が変わっても色あせない本書の本来の魅力が、今回の改訂によって若い世代の読者にも伝わることを願っている。(2005/5/13)

 なお、出版社による紹介文は以下のとおり。「類書にない奥行と幅広さで,論文の準備から完成までを具体的・実践的に示し,「論文の書き方の決定版」と定評のロングセラーを,オンライン情報の学術利用の一般化にあわせ全面改訂.学生の卒論・レポートの手引に,教師の学生指導の伴侶に最適.」詳細情報はこちら。(2005/5/13)
 
 

《2005年4月》

ブッシュ大統領の支持率、過去最低に

 4月21日から24日にかけてワシントンポストとABCが行った全米の世論調査によると、G・W・ブッシュ大統領の支持率は過半数を下回り、就任以来過去最低の47パーセントとなった。不支持は50%。「強く支持」の回答が先月の調査から6ポイントも落ち込んで25%となり、「強く反対」38%との差が開いている。

 分野別で見ると、ブッシュ大統領の支持率が高いのは外交面、とくに対テロ戦争(56%)であるが、イラク情勢については支持が42%、不支持が56%となっている。イラク戦争での戦闘終結宣言から5月1日で2年が経過するが、米兵の犠牲者数は1500人を上回った。また、最近では国連軽視で有名なJ・ボルトンを国連大使に任命しようとする人事政策への批判も高まっている。

 内政面では、社会保障(31%)、経済(40%)、エネルギー政策(40%)と軒並み支持率が低い。とくに2期目の主要課題である年金改革案は不人気で、社会保障については反対(64%)が賛成の2倍を上回っている状況である。こうした状況を受けて、ブッシュ大統領は28日、野党民主党の主張を一部取り入れて、低所得層への年金支給額を増やす修正案を打ち出している。(2005/5/1)

(参考資料:"The Minority Leader," Washingtonpost, April 26; ブッシュの支持率の動き(グラフ); 世論調査の全結果(pdf); 毎日新聞4月27日; 産経新聞4月30日)
 
 

《2005年3月》

ジョージ・ケナンの死去(訃報)

 17日、「封じ込め」政策の立案者として知られるアメリカの元外交官ジョージ・ケナンが、ニュージャージー州プリンストンの自宅で死去した。101歳であった。

 ケナンは外交史家としても有名で、著書『アメリカ外交50年』(1951)ではアメリカ外交の理想主義的傾向から来る「道徳家的=法律家的発想の過剰」を批判し、より現実主義的な外交の必要を説いたことで知られる。その後、ケナンは冷戦の展開とともに「道徳家的=法律家的発想の過剰」という問題は大部分過去のものとなったと指摘、むしろ問題は米ソ核軍拡競争に見られるような「軍事の偏重」の傾向が強まったことであると指摘した。はたして、現在、アメリカ外交は、それらの問題をどれだけ克服できたといえるであろうか。(2005/3/21)
 
 

《2005年2月》

(更新のお知らせ)ホームページのリンク切れを修正

 ホームページのリンクがずいぶん古くなってしまってしまい、ご迷惑をおかけしましたが、2年ぶりにリンク切れを修正しました。(2005/2/21)
 


アメリカ政治研究会「阿部斉先生の業績を振り返る」に参加して

 2月5日のアメリカ政治研究会は、研究会の初代司会者で、昨年(2004年)9月12日に逝去された政治学者「阿部斉先生の業績を振り返る」というテーマで、通常よりも多くの報告者・出席者を集めて行われた。阿部斉先生は、1933年東京生まれ、57年に東京大学法学部を卒業して大学院社会科学研究科に進学、64年4月に成蹊大学に就職して以来、筑波大学、放送大学の教授を歴任、昨年3月に放送大学を退職なされたばかりであった。東京大学では、行政学者の辻清明教授に師事したが、『アメリカの民主政治』の「あとがき」によれば、「私のアメリカ研究の基本的な部分については、その多くを斎藤〔真〕教授と〔ルイス・〕ハーツ教授とに負うている」という。主著に『民主主義と公共の概念』、『アメリカ現代政治』『概説 現代政治の理論』など。

 阿部斉先生は、広い視野を持ってよい教科書を多く書かれた先生で、かくいう私も学生時代に私淑した一人である。私は今でこそ専門分野である「アメリカの外交」のほかに「アメリカの政治」などの講義科目を担当しているが、自分が通っていた大学にはアメリカの内政を専門とする教授がいなかった。それだけに、阿部斉先生の著書から受けた影響は大きかったと思う。そこには、たかが教科書とはいえない、洞察に富んだひとつのアメリカ像が描かれていた。現在のアメリカ研究は、阿部先生が研究者の道を歩み始めた1950年代後半から60年代前半とは大きく状況が変わっており、研究の実証性が高まると同時に多様化しているので、教科書を書くにも共同執筆となる場合が必然的に多くなっている。これから先は、阿部先生が書かれたような教科書に出会う機会も減っていくのであろうか。(2005/2/8)
 


《2005年1月》

ブッシュ大統領、2期目の就任演説

 1月20日、ブッシュ大統領は2期目の就任演説を行なった。演説のテーマとなったのは「自由の促進」で、ホワイトハウスのホームページに発表されたテキストでは「自由」(free, freedom)という言葉が34回も使われている。

 内政面でのキーワードは、「オーナーシップ・ソサエティー(所有者の社会)」である。その内容としては、減税によって民間の活力を刺激し、「住宅や企業、退職後の貯蓄や健康保険の所有(オーナーシップ)」を促進し、そのようにして福祉依存体質から脱却して自己責任の原則を徹底することを目指す。そして、そのような文脈において、今後ますます財源の確保が厳しくなるであろう公的年金制度の改革が大きな目標として掲げられている。

 「オーナーシップ・ソサエティー」は、考え方としてはレーガン流の「小さな政府」路線を継承・発展させたもので、1960年代半ば以降に民主党が推し進めてきた福祉国家路線のスローガン「偉大な社会(グレート・ソサエティー)」に対抗した言葉と考えられる。ブッシュ政権は、発足当初からレーガン主義的な保守政治を受け継いでいたが、1期目のスローガンである「思いやりのある保守主義」は「小さな政府」論の持つ弱者に厳しい部分をオブラートに包むような表現であった。これに対して「オーナーシップ・ソサエティー」は、富裕層を優遇しているようでもあり、中間層に希望を持たせているようでもあり、「小さな政府」論の持つ明るい部分をショーアップし、見栄えよくショー・ウィンドウに飾ったような印象を受ける。しかし、そのスローガンのもとで実際に行われるのは、ニューディール以来の社会保障制度の見直しであり、個人の責任がこれまで以上に厳しく問われることになる年金制度改革である。その点については、今後多くの論議を呼ぶことになるであろう。

 外交面では、「世界平和のための最善の道は、世界中に自由を拡大することである」と述べ、「世界中の圧政を終わらせること」を「究極の目標」に掲げた。大統領は、具体的な国名は挙げなかったが、ライス次期国務長官は上院の公聴会で、北朝鮮、イラン、キューバ、ミャンマー、ベラルーシ、ジンバブエを「圧政」と名指ししており、これらの国に対するアメリカの対応が注目される。(2005/2/5)

(参考資料:就任演説(原文)、産経新聞 1月21日、読売新聞1月21日、共同通信1月19日)


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