壁一面の本棚の作り方
1.本棚の設計
本棚をつくるというと、鋸や金槌をつかって工作している様子を想像して、自分はそうした道具を上手に使えるほど手先が器用だろうか、と自問する人が少なくないかもしれない。しかし、実際には、本棚をつくれないほど不器用な人の方が稀だと思う。少なくとも、鋸や金槌を使うような工程に至るまでに、事前の準備がしっかりとできていさえすれば、本棚の完成はせいぜい時間の問題であるといえる。 何事をなすうえでも大切なことは、いかに明確な完成イメージを事前に持てるか、ということである。よい結果が得られるまでの過程が事前にしっかりとイメージされるまで、十分な準備を怠らないならば、大抵のことは実現できるものだ。本棚づくりに不安を抱えて、自分はそれほど手先が器用だろうかと悩んでいる人は、実は不器用なのでも何でもなく、準備不足のために明確なイメージが得られていないだけである。まずは、自分の欲しい本棚をしっかりイメージし、よく考えて間違いのない設計図を描き、必要な道具と材料を入手することである。 私が本棚を据え付けたのは、江戸間の8畳の部屋である。壁の横幅は2畳分で、352センチメートルである。ただし、一般に、工作の世界では「ミリ」を単位とするので、以下ではそのサイズを「3520」というようにミリ単位で表記することにしたい。思うに、畳2畳分の長さの壁というのは、6畳間、8畳間、10畳間、どの広さの部屋でも、よくありがちなサイズである。そこで、私はいくつかの本棚をパーツとして組み合わせると全体の横幅が3520弱になるような設計をすれば、引っ越しても使える(少なくともその公算が大きい)壁面本棚をつくれると構想した。 では、3520弱の横幅をいくつの本棚(パーツ)に分けるべきか。理想としては、棚板が歪まないように十分に頑丈にするための長さは600以下と考えられるので、全長3520だと6つのパーツに分ける必要がある。しかしながら、それに加えて床の間にも本棚を組むとなると、私は7本の本棚をつくらねばならないことになる。理想的にはそうすべきだとわかっていても、それでは作業に手間がかかって大変だ。あるいは、幅1200弱で中央に側板を入れた2列の本棚を3組つくるという手もなくはないが、素人がいきなり複雑な構造の棚をつくるのは危険であるし、幅1200の本棚というのはかなり重厚長大で工作中や据え付けや移動の際も難儀するだろう。とはいえ、本棚の数を単純に5つに減らすというのも気が引ける。その場合、本棚1本当たりの横幅(棚板の長さ)が700程度となってしまい、材料が無駄になりやすい。というのは、板というものは、一般に、長さ600、900、1200、1800(1820)というような単位で売られているので、700というサイズでは無駄が大きくなりそうなのだ。そこで、思い切って、4つのパーツに分けるとどうなるか。この場合、本棚1本当たりの横幅は880となり、無駄は少なくなるし、作業の手間も大いに省くことができる。 ただし、本棚の数を6本から4本に減らす代わりに棚板の長さが600弱から900弱に伸びるとなると、心配なのは棚板の強度である。一般に棚板は厚さ9、12、15、18、21、24、30というようなサイズで売られている。先に紹介した「清く正しい本棚の作り方」にも書かれているとおり、本というのはかなり重いものであるので、棚板の材質にもよるが、棚板の厚さは21くらい欲しいところである。私の場合、ホームセンターに21や24の商品の在庫がなかったため、また厚さ18ミリのラジアタパイン集積材が特売されていたという誘惑にも駆られて、18ミリの板を選んでしまった。ちなみに、ホームセンターの相談係は、最初は棚板の長さは600くらいが適切であると無難なアドバイスをしていたが、話し込んでいると「(客に勧めるのではなく)自分自身がやるときは18ミリの厚さの板で900ミリくらいまで張っている」と白状してくれた。読者のみなさんには21ミリの板を勧めるが、こうして私の本棚の設計図は厚さ18ミリの板を使用することが前提となった。 全長3520と言っても、ギリギリのサイズで設計してしまうと、実際には完成した本棚が壁に収まらないというミスを犯しかねない。そこで、私はまず棚板の長さを830と定め、側板2枚の厚さを含めた横幅866の本棚を4本つくることとし、結果として全長3464の壁面本棚をつくることに決めた。サイズを正確につくるポイントは、棚板の長さを正確に切ることなので、横幅それ自体をキリのよい数字で設計するよりも棚板のサイズをキリのよい数字で設計した方が得策だと考えた。 本棚の高さは、天井までということだが、実際には5ミリ程度は短く設計しておかないと、実際には収まらなくなってしまう危険がある。私の本棚の設置場所は、天井の高さが2485であったので、本棚の高さは2480と決定した。しかし、高さ2480の本棚を一度につくり、壁にはめ込むという作業は、材料の入手という点でも、また技術的にも、素人には難しいと思われた。そこで、市販の天井突っ張り本棚の設計もそうであるように、上下二段組の本棚をつくることにした。ただし、市販の商品では1800程度の高さの本棚のうえに、「上置き」と呼ばれる高さ400程度の箱を載せることが多いようだが、私は高さ680の土台となる箱のうえに、高さ1800の本棚を載せる構造をとることに決めた。土台部分は奥行き250と深めに設計して重心を安定させ、高さ1800の本棚は奥行き170と狭めにして圧迫感を減らし、部屋を広く見せようとしたのである。ちなみに250というは特売されていた集積材のサイズであり、170というのは大体学術書の奥行きプラス10ミリのサイズである。 こうして、私の本棚は、厚さ18ミリの板を用いて、幅866(4セット合計3464)、高さ680+1800、奥行き250/170というサイズに決定された。これを4セットつくると、8畳間の壁一面がほぼ埋まる形である。 次に、各棚の高さであるが、当初はスチール製のレールと棚受けを使って、高さの調節可能な可動棚をつくる予定であった。スチール製のレールと棚受けは、木ダボを使うよりも頑丈らしい。しかし、よく考えてみると、可動棚というのは便利なようで、実際には最初に一度高さを調節したら二度と動かさないものではないか。もしそうであるならば、設計の段階で、自分の蔵書のサイズをよく把握し、どの高さの棚がどれだけ必要かを計算し、木ねじでとめるだけの固定棚を設計してしまった方が早いだろう。私の場合、蔵書はA5やB6のテキスト、学術書が多く、その他に文庫・新書と大型本・A4資料の入る棚が必要である。そこで、各棚の高さは、以下のようにすることに決めた。
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