国際政治・アメリカ研究

壁一面の本棚の作り方

 
 はじめに――DIYに至る経緯

 引越を機に、壁一面の本棚を自分でつくった。幅4メートル超、高さ2.5メートルという巨大な本棚だ。これは、DIYの初心者である私がどうやってそれを完成させることができたかの記録である。

 私は大学の教員という職業柄、蔵書が多く、新しい家にはどうしても壁一面の本棚が欲しかった。そこで、引越先の1階にある8畳の和室をリフォームすることに決めた。床を補強して畳をフローリングに変え、天井と壁にクロスを貼るところまではリフォーム業者に頼んだ。本棚については、当初の見積もりでは30数万円、高くても40万円はしないという話であり、これも業者に依頼するつもりでいた。
 
 





 材料としては、シナ合板、パイン集積材、化粧合板が候補であり、後のものほど高額になる。シナ合板とパイン集積材は塗装の有無で金額が異なる。また、私は8畳間の「床の間」の部分まで本棚を組んで欲しかったのだが、それをするかしないかでも当然金額は異なってくる。結局、建具屋に実際の見積もりをしてもらうと、塗装なしとするか、あるいは床の間の部分を組まなければ40万円だが、そうでなければ50万円近くかかるということであった。

 簡単には諦めたくなかったが、思っていたよりも本棚に予算がかかるとわかったので、市販の本棚についても調べてみた。しかし、適当なものはなかなか見つからない。まず、廉価なものは棚板がすぐにたわんでしまいそうである。コミックのような本なら軽くてよいが、学術書は重いので、負荷に耐えられそうにない。次に、高価なものは頑丈そうであっても天井まで届くものがなく、その代わりに奥行きが深すぎて部屋を無駄に狭くしてしまうだけである。

 そんなときに偶然見つけたのが、「清く正しい本棚の作り方」<http://www.coara.or.jp/~tt/books/bkshelf/bkfrm.htm>というホームページである。そのホームページは「頑固堂」書店という古書店の店主が作成したもので、天井本棚の作り方を丁寧に解説してくれている。その素晴らしい解説文を読み終えると、私はある種の感動を覚え、とりあえずホームセンターへ行って、実際にどのような材料や道具が売られているのかを調べてみることにした。

 そこで私なりに気づいたことは、業者の見積もりにある材料費はおそらく実際よりも高く書かれているということである。たとえば、木材ならば質の善し悪しで価格差が生じるのはわかるが、可動棚用のスチール製のレールのようなものまで価格が全然違うのだ。ここから先はたんなる推測であるが、業者としては、経営上は人件費や技術料を高く請求する必要があるけれども、それだと消費者に納得してもらいにくいので、消費者にはわかりにくい材料費の部分を高めに見積もっているのではないか。

 ホームセンターで材料を調べてみると、特売品を見つければ最安値で3〜5万円、そうでなくても7〜8万円程度で、壁一面の本棚をつくれそうだという感触が得られた。もっとも、家族を始め、私が相談したすべての人は、40万円なり50万円という金額が高いとは言わなかったし、10万円以下でつくれるなら自分でつくった方がよいというようなことも言わなかった。普通の人ならともかく、私は大学教員なので本棚は仕事の道具、だから本棚についてケチる必要はない、というのである。

 しかし、結局、私は大学の春休みを利用して、本棚を自作することに決めた。第一に、作りつけの本棚は次に引っ越すと使えなくなるが、持ち運び可能なパーツを組み合わせる設計で自作すれば一生涯使えるはずだ、というアイディアが浮かんだこと。第二に、単純に工作を楽しんでみたかったこと、が理由である。研究者の仕事は遅々として進まず、私の場合、論文や本ができてしまうとむしろ自己嫌悪に陥るところがある。それに対して、壁一面の本棚は、いかに大変だと言ってもせいぜい一週間の仕事であり、ものづくりの喜びが得られるにちがいなかった。そして、それは実際にその通りであったのだ。
 
 

はじめに1.本棚の設計2.本棚づくりの道具と材料

3.本棚の組立4.本棚の塗装おわりに







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