不朽の名盤――ロック編
アメリカが好きでないひとでも、アメリカン・ミュージックを愛することはできる。自由と差別、繁栄と貧困・・・・。
アメリカの光と影がうみだす素晴らしい音がそこにある。(このページでは、どこぞの駆け出し評論家のように、
思い入れたっぷりの文体で、名盤を紹介します。)
(2) Bob Dylan,
The Freewheelin' Bob Dylan
アメリカン・ロックの大御所、ボブ・ディラン。「プラネット・ウェイヴズ」「追憶のハイウェイ61」など、ロックの
名盤もあるが、ディランのアルバムの中から1枚選ぶとなると、どうしても60年代前半のフォーク時代のもの
になってしまう。 「フリーホィーリン」は、1963年に発売されたディランの2作目にあたる。
ロック・ファンの中には、「ボブ・ディランなんかロック・ミュージシャンじゃない。ロック・バンドを従えて歌うよ
うになったフォークシンガーにすぎない」と非難めいたことを言う人もいるようが、こういう主張はまったくナン
センスというべきである。ディランは、確かにフォークシンガーであり、彼がいなくてもロックは成立した。しか
し、もし彼がいなければ、ロックはそれ以前のロックン・ロールやポップスと同じようにメッセージ性にかける、
その意味でたとえサウンドはハードでも軟弱な音楽に終わったにちがいないのである。
デビュー作「ボブ・ディラン」では、トラディショナル・ソングを多く歌ったディランだが、本作 「フリーホィーリン」
からは、自作の曲を中心に演奏するようになる。そのメロディ・ラインは、音楽というよりも辻説法のようだとい
われる斬新なものであったが、それよりも光っていたのは歌詞のすばらしさであった。彼の初期の作品は「プロ
テスト・ソング」が多いといわれるけれども、私がすばらしいというのはその意味ではない。彼のすばらしさは、
24時間異性のことばかり考えているわけではないが素敵な恋愛に憧れ、馬鹿騒ぎばかりしていられないがユー
モアを忘れず、時に反抗的だが時に内向的な、時には政治に不満をぶつけたくもなる、現代の若者の心のひだ
まで表現したこと、そして、それをたんなる詩ではなくメロディにのせることに見事に成功したことにあるといえる。
「一人前の男と呼ばれるまでに、いったいどれだけの道のりを歩いて行かねばならないのか」という歌い出しの
「風に吹かれて」は、このアルバムのA面一曲目としてあまりにも有名である。また、このアルバムには、「北国の
娘」「くよくよするなよ」「ボブ・ディランの夢」「アイ・シャル・ビー・フリー」など、その他にも名曲が目白押しだ。
ジャケットの写真は、当時ディランが住んでいたアパートの前の通りを本物の彼女と一緒に写したものであるら
しい。少し照れくさそうに下を向いて歩く若者の心の中は、このアルバムの中にしっかりと収められている。
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