不朽の名盤――ロック編
アメリカが好きでないひとでも、アメリカン・ミュージックを愛することはできる。自由と差別、繁栄と貧困・・・・。
アメリカの光と影がうみだす素晴らしい音がそこにある。(このページでは、どこぞの駆け出し評論家のように、
思い入れたっぷりの文体で、名盤を紹介します。)
(1) Jimi Hendrix Experience, Axis: Bold as
Love
ジミ・ヘンドリックス、通称「ジミヘン」。彼が60年代を代表するロック・ミュージシャンの一人であることに
異議を唱えるものはまずいないであろう。わずか4年のレコーディング活動であったが、彼の音楽が与えた
影響は計り知れない。100人のギタリストがいれば、100人がひそかに彼を模倣しようとし、100人が少
なくとも何らかの意味で挫折したのではないか。
ロックとは、基本的にギターを中心とするバンド形式で自作の歌曲を演奏する激しいビートの音楽である。
イギリスのビートルズやローリング・ストーンズが最高のロックバンドであることは否定のしようがない。しかし、
ビートルズとローリング・ストーンズの場合は、どちらか好きな方を聴けば許されるかもしれないが、ジミ・ヘ
ンドリックスを認めない者をロック・ファンと呼ぶのはどうか。私には疑問である。というのは、ジミ・ヘンドリッ
クスは個人として、作詞、作曲、アレンジ、歌、演奏技術、レコーディング、ステージ・パフォーマンス、ルック
スというトータルな面で、間違いなく最高のロック・ミュージシャンであり、その生き方や死に様まで含めてまさ
にロックの権化だからである。だから、ロックを愛するものは、必然的にジミヘンの魅力に取り憑かれるので
ある。
通常、ジミヘンの最高傑作は68年のアルバム「エレクトリック・レディランド」であると考えられているが、私
は 67年の「アクシス/ボールド・アズ・ラブ」に最大の魅力を感じている。というのは、このアルバムでは、
ジミヘンの天才ギタリストとしての側面も十分に味わえるが、他のアルバムと違いそれを前面に押し出すより
も詩と楽曲が重視されているため、トータルなロック・ミュージシャンとしての価値を存分に味わえるからだ。
「アクシス/ボールド・アズ・ラブ」には、彼の才能・技術・進取の気性、実験、自由さ、激しさ、そして優しさの
すべてが、みずみずしい生の感覚とともに包み込まれている。ギターソロは彼にしては短めだが、ボーカル
とギターの絡み合い方は、まさにこれ以上ないという極限に達している。
「アクシス/ボールド・アズ・ラブ」は、ジミヘンの精神と肉体が織りなす一つの宇宙である。はじめてこれを聴
く人は、B面の最後の1曲が終わりレコード針があがったとき、とてつもない才能に出会ったことに気づくであ
ろう。
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