THE AMERICAN MUSIC: Blues, Jazz, Rock
 


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 不朽の名盤――ジャズ編

  アメリカが好きでないひとでも、アメリカン・ミュージックを愛することはできる。自由と差別、繁栄と貧困・・・・。
  アメリカの光と影がうみだす素晴らしい音がそこにある。(このページでは、どこぞの駆け出し評論家のように、
  思い入れたっぷりの文体で、名盤を紹介します。)
 

  (1) Charlie Parker, On Dial, Vol.1             
 

   サッチモやデューク・エリントンなど戦前派の大御所は別として、モダン・ジャズのアーティストのなかで
  最初に名前をあげるとしたら、やはりこの人しかいない。チャーリー・パーカー。通称「バード」。

   1940年代、白人にも受け入れられやすい軽快なスウィング・ジャズの全盛期に、バードは、アルト・サッ
  クスを片手にバップの革命を巻き起こし、モダン・ジャズの黎明期を切り開いた。本作は、46年から47年
  にダイヤルで録音されたもので、録音状態は必ずしもよくないが、モダン・ジャズが生み出された当時の
  雰囲気を味わうことのできる、臨場感にあふれる名盤である。

   たしかに、録音状態や同じ曲が何テイクも入っていることを考えると、モダンジャズの入門編として聴く
  にはきついと思う人もいるかもしれない。しかし、実際19、20の頃に、それまでブルーズとロックしか聴か
  なかった私が、初めてきちんと聴いたジャズのアルバムが、バードのオン・ダイヤルであった。そのときの
  感激はいまでも忘れられない。

   正確に言えば、私は、それまでもマイルス・デーヴィスやソニー・ロリンズなどを何度か聴いていたも
  のの、自分はだんぜんブルーズ派だと信じていたので、それほどまじめには聴いていなかった。恥ず
  かしいことに、そういう巨人の演奏さえもせいぜいBGM程度にしか考えていなかったのである。しかし、
  ある時、ジャズ・ギタリストのジョジョ高柳に師事していた友人が、「まあ黙ってこの『ラヴァー・マン』とい
  う曲だけでも聴いてみろよ」と紹介してくれたのがきっかけとなった。「ラヴァー・マン」は、本アルバムに
  多く含まれているアップテンポの激しいバップとは異なり、ピアノを伴奏とするスローなバラードで、そ
  の曲調は悲惨ささえ感じさせるものなのだが、楽器の種類を問わず「ソロというものは、こういう風にと
  るものなんだよ」といわんばかりの名演であった。バードは、この曲を演奏し終えたとたんに倒れてしま
  ったという伝説もある。管楽器が、これほどまでに感情を表現できるものだと知ったことは、当時の私に
  はまさに衝撃であった。

   本アルバムは、決してトータルなアルバムづくりを意識して練り上げられたものではない。しかし、バ
  ップ革命を追体験するという意味でも、そして「ラヴァー・マン」などの名演を通じてチャーリー・パーカ
  ーという演奏家の天才を知るという意味でも、本当に貴重な一枚である。なお、本作には「チュニジア
  の夜」のような有名な曲も含まれているので初心者にはうれしい。

 
   

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