THE AMERICAN MUSIC: Blues, Jazz, Rock
 


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 番外編――「世界のナベサダ」本学に来たる

  アメリカが好きでないひとでも、アメリカン・ミュージックを愛することはできる。自由と差別、繁栄と貧困・・・・。  

  アメリカの光と影がうみだす素晴らしい音がそこにある。                                      

 
 今日は、出講日以外で初めて自ら進んで大学へ出向き、桜美林に赴任して以来初めて大学の礼拝
堂を訪れた。なんとなんと、「世界のナベサダ」こと渡辺貞夫さん(以下敬称略)の無料コンサートに行
くためである。期待に違わず、本当に楽しいコンサートで、貴重な経験をさせていただいた。こんなに
かっこいい77歳がいてよいものか。私が観たコンサートの最高齢記録ではレス・ポールの77歳が単独
首位であったが、これと並んだ形である。しかも、渡辺貞夫の方が明らかに若々しかった。ただただ
脱帽である。

 渡辺貞夫というと、中学生の頃にテレビで観た資生堂ブラバスのCMの印象が強い。「カリフォルニ
ア・シャワー」「オレンジ・エクスプレス」など、渡辺貞夫の米西海岸を思わせる明るくさわやかなサウ
ンドに乗り、これまた明るくさわやかなルックスの俳優、草刈正雄が何とも魅力的な男を演じている。
ときどき渡辺貞夫自身もそのシリーズのCMに出演していた。当時の日本人のおじさんにはありえな
いようなリラックスした雰囲気が印象的であった。このCMが醸し出す雰囲気には憧れにも似た、抗
しがたい魅力があったのだが、しかしその一方で、正直に言えば、当時の自分には肯定することの
できない何ものかも存在していたことを想い出す。思春期の私には、資生堂ブラバスのCM中の陽気
な大人たちの世界は素直に受け入れられるものではなかったのだ。この矛盾だらけの世の中で、
どうしてあのように気さくに笑っていられるものか、と。

 ところで、いまどきの学生は「渡辺貞夫」と言っても大半は知らないらしい。教職員用の座席は後方
に用意されていたのだが、コンサートの途中でどうしても「もったいない」気分になって、前から5列目
の空席まで移動した。この無料コンサートに飛びつかない学生たちは、いったい「世界のナベアツ」
という芸人の名前の由来をどう理解しているのだろうかと、つまらない疑問が頭をよぎるけれども、
知らないものは知らないのだから仕方がない。おかげで、「世界のナベサダ」の演奏を至近距離で
観るという幸運に恵まれた。

 曲と曲の合間にナベサダが「今日は若い人が多いね」という。そして、次の曲と曲の合間に「大人
しいなあ」という。「そうなんですよ、渡辺貞夫さん」と心の中で思っていると、資生堂ブラバスのCMで
見せたような、あの淀みのない笑顔で、他のメンバーのソロにあわせて喜寿のナベサダが踊り出し
た。そんな風にして、この人は人生の楽しみ方をわれわれにずっと教えてくれている。そんな「世界
のナベサダ」に感謝する一日であった。(2010/5/25)

 渡辺貞夫グループ、荊冠堂コンサート。
 出演:渡辺貞夫(as)、小野塚晃(pf)、養父貴(elg)、コモブチキイチロウ(elb)、石川雅春(ds)、
ンジャセ ニャン(per)。
 2010年5月25日(火)開場18:00 開演18:30(〜19:55)。入場無料。

 

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